異世界巨大迷宮攻略大作戦 part 5

 「まずはテメェからくたばれ!」


俺は勢いよく飛び出すと、周りに指示を出しているエルフへ向けて走り出した。

司令塔さえ潰せばこういう連中はただの烏合の衆だ。

司令塔がいなくなってまごまごしたところを高火力で一気に焼き尽くす!

こういうのを、『馬を狙うよりさっさと大将狙えやビビリ』って言うんじゃなかったけ?

まあいいか。


周りからエルフどもの魔法が飛んでくるが、どれも俺に触れる前にかき消えていった。


「そんなヘボ魔法じゃ俺は止められねえよ!」


そう言いながら突っ込んでいくと、剣やらナイフを持ったエルフどもが四人ほど立ちふさがってきやがった。


まず最初に一番前に立ってる奴が剣で切り掛かってきたが、それを片手で受け止める。

するとその剣は煙を出しながらチョコレートみたいに一気に溶けていった。

それを見て剣持ちのエルフは驚いて目を丸くするが、さすがはエルフと言ったところか、すぐに腰のナイフに手を伸ばそうとした。


その反応の速さは褒めてやりたいが、俺相手じゃあそんなのは意味ないぜ。

俺は剣を受け止めていた手を剣ごと握り込む。

すると剣は水みたいに地面へとこぼれ落ちた。

そのまま溶けた剣の滴を手から滴らせながら、俺は剣持ちエルフに向けて拳を突き出した。

突き出した拳はそのままの速度でエルフの鳩尾を突き破って貫通した。

すぐさま腕に力を込めて握ると、エルフは鳩尾を中心として一気に燃え上がった。


一瞬にして炭化したエルフを腕で軽く払うと、ボロボロと崩れて地面にばら撒かれた。

それを見て、他のエルフどもが殺気立つ。


「おいおい、他人を気にしてる暇があるのか?」


俺は一気に並んで向かってきたエルフに肉薄すると、一人を手刀で袈裟斬りにする。

斬られたエルフの傷口から一気に炎が吹き出し、全身を包み込む。

それに気を取られたもう一人の首をつかんで、その後ろにいたエルフへ向けて一気に投げ飛ばす。

その際、掴んだエルフに火をつけることも忘れない。

投げられたエルフは掴まれた首から燃え出し、燃え出したまま後ろにいたエルフへとぶつかった。

そしてぶつかったエルフ共々燃えていく。


俺が投げた体制から背を伸ばしてその場に垂直に立つ頃には、俺へと向かってきたエルフは全員燃え尽きて死んでいた。

俺はその燃えかすを見下ろし、笑いながら周りで息を飲むエルフどもへと話しかけた。


「こんな風に形も残らずに死にてえ奴は前ぇ出ろや」


あくまでこんなんは脅しだ。

頭がいい奴なら俺のエネルギー切れか増援待ち時間稼ぎ狙って部下を突っ込ませるだろうな。

だが、俺を取り囲むエルフどもは恐怖で体が固まってたじろいでやがった。


「ケッ、腰抜けどもが…俺ぁもっと骨のある女が好みなんだがねえ」


多少の人数は残して後のお楽しみにしようと思ってたが、こんな腰抜けどもを相手にしても満足できそうにねえなあ。

それじゃあ当初の予定通り…




「皆殺しだ」





俺は腹に思い切り右手を突っ込んだ。

それを見て周りのエルフどもは騒めくが、そんなこと御構い無しに腹の不覚へと腕をねじ込んでいく。

そして内臓に届いたあたりで腕を引っこ抜く。

その俺の手には、縄状の長いものが掴まれていた。

それは、俺の体と同じように高温で光っていて、辺りへと熱気を放っていた。



「『踊る海蛇_Sea Salamander_』!!」



それは、マグマで形作られた鞭である。

俺は鞭を腕ごと天井へ向けた後、勢い良く前方に向けて横にふるった。

その鞭は振る前よりも明らかに長く伸びていった。

そのままエルフどもへ向けて横薙ぎに払う。

鞭は何の抵抗も無く右から左へと流れるようにして振るわれた。


数秒が経過する中、それを見ていたエルフ達は不思議そうに見ていたが、鞭を振るわれたエルフ達は微動だにしなかった。

しかし数秒が経過すると、グラリと俺の目の前に立っていたエルフどもの体が傾き始めた。



否、傾いたのは上半身のみであった。

そのまま傾き続け、地面へとボトリと音を立ててエルフどもの上半身が地面へと落ちていった。

それを見て周りのエルフどもはポカンと呆気に取られるが、すぐにその顔が青ざめていった。


「おら次はテメェらだ!」


俺は逃げられないように、振った腕をすぐさま反対側へと振った。

俺の右側にいたエルフどもへ向けて鞭が振るわれる。

しかし最初の攻撃を見ていたからか、何名かはバックステップで避けようと飛び退がった。


だがそれを許すほど俺は優しくはねえ!

鞭は先ほどよりも更に長く伸び、エルフどもの数歩後ろにあった木にまで到達した。

そしてエルフどもの首、胴体、腰、足、を断截する。

切り口は灼け爛れ、真っ平らになっていた。


高音の鞭は触れたもの全てを焼き尽くす。

そしてそこに速度が乗ることで、あらゆるものを切り裂くことができる。

これなら、魔力の通った燃えにくい木でも問答無用で伐採できる。


俺は鞭を両手で掴み、そのまま音をならせながらピンと張った。


「次は誰が死んでみるか?」




俺の目の前には脚を切られてうずくまるエルフ。

上半身と下半身が離れ離れの遠距離恋愛になったまだちょっと息のあるエルフ。

首から上がサヨナラバイバイしたエルフ。

そして、その死んだり虫の息の奴らを見ながら涙を流すエルフ。


エルフ達の間に、確かに絶望が広まりつつあった。

心が折れかけたエルフどもを眺めながら、俺は内心溜息をついた。


ここには俺の魂を揺さぶるような、根性のある奴はいないようだな…つまらん。

ならさっさと全員始末するか。

俺は一気にケリをつけようと鞭を構える。


すると、俺の目の前へと立ち塞がるようにして、一人の女エルフが飛び出てきた。


「こ…これ以上あんたの好きにさせてたまるか!」


「シグレ!?」


俺が狙っていた司令塔エルフが驚愕の表情を浮かべている。

なんだ知り合いか?

もしくは姉妹とかな。


「お姉ちゃん!私がルナと一緒に攻めるから支援して!」


「無茶よ!あなただけでも早く逃げなさい!」


本当に兄弟だったようだな。

司令塔のエルフも妹のシグレとかいうエルフの側へとやって来た。

丁度いい、司令塔を生かしておいても良いこたぁないからな。

姉妹共々ぶっ殺してやるか。



…ん?…ルナ…?

誰だそr …




白い影が通り過る。


俺が頭の中にクエスチョンマークを浮かべた瞬間、俺の首筋を衝撃が襲った。

人間が食らえば首ごと持ってかれるような一撃。


その白い影は妹エルフの側で急停止し、こちらへと顔を向けた。

それは銀色の毛の狼だった。

しかしその体格は普通の狼の何倍も大きかった。


こいつは神狼…フェンリルの類か?


首に手を当ててみると、思いっきり歯型がついてやがった!

咄嗟に首を傾けてなけりゃ首を取ってこい宜しく、エルフどものとこへお届けされるとこだったな。

すぐに首は煙を立てながら溶岩が湧き出て治ったが、あんな速度で攻撃されたら手も足も出ねえな。

いくら攻撃力があっても当てられなけりゃあ意味がねえ。

広範囲攻撃をしたところで避けられるだろうし…速度特化ほど厄介な相手はいねえよ…


しかし気になる点が一つ。

俺の体温は近づいただけで火傷するほどだ。

それを牙で、口で噛みちぎるなんて真似したら向こうもただじゃ済まねえはずだ。

それが何で無事でいられたんだ?




「今姉さんにもかけるからね!」


そう言いながらシグレというエルフが呪文を唱えた。

すると、そいつともう一人の女エルフの体が光に包まれた。

よく見れば、大狼の体も薄っすらと光に包まれていた。


そうか!強化魔法か!

強化魔法を施したから俺に触れても無事だったわけか。

それでも数秒触れ続ければ、熱ダメージを受けるはず。

だがそれを狼は自慢の速度で克服してるってことか。


こりゃあ、少々厄介だな。



「いくよ!ルナ!」


妹女エルフがそう言うと、狼が目にも留まらぬ速度で俺の周りを走り出した。

その速度は、薄っすらとでしか姿が見えない程の速さだった。

そして俺の周りを回りながら、俺へと一切速度を落とさずに突撃して攻撃してくる。


急所を守りながらその動きを観察していたが、俺はわざと隙を晒した。

首元の守りをわざと薄くしたのだ。

すると、目論見通りに狼が背後から首めがけて飛びついて来た。


しめた!

俺は一気に振り返ると、握りしめた拳を放とうとした。

しかし、そんな俺めがけて光の魔法が飛んで来た。

眩しく輝く光の剣が俺の側頭部へと突き刺さった。

その頭への衝撃で攻撃が少し遅れ、その上魔法の眩しさで拳の角度がズレた。

勿論攻撃は狼に当たらず、逆に狼の攻撃は俺の首へと当たった。

幸い、眩しさに目が眩んだおかげで首の位置が少しズレてカスリ当たりだった。


畜生!

誰だ邪魔しやがったのは!

俺の視界に動く人影が写った。

そこには、木の枝の上から人差し指を俺へ向ける妹エルフがいた。

こいつが魔法で俺を妨害してきやがったのか!?


そう考えていると、さらに後ろから何かが後頭部に当たった。

その痛みに顔をしかめながら振り向くと、姉エルフが手のひらを俺に向けていた。

今度はテメェか!?


キレそうになっていると、狼が俺の腕を食いちぎりやがった!クソが!


もがれた腕の切り口からすぐに溶岩が垂れてきて、腕は修復される。

その間も狼は俺の周りをグルグル駆け回りながら牙や爪で襲いかかり、エルフ姉妹は魔法でちまちまチクチクと攻撃してきやがる。

役割分担して俺を消耗させようって魂胆か…?

俺は怒りで煮えたぎった目を目の前のちょこざいな虫けらへと向けた。

上等だ!まとめでブチ殺すしてやらあ!








『姉さん!そろそろあいつもはらわたが煮えたぎってる頃じゃない?』


『そうね…そろそろ決めの一手を打つべき頃合いね』


『あんな目してこっちを睨んじゃって…!ホント男って単純だよね!』


『だけど同時に気を抜けない相手でもあるわ…最後まで気を抜かないように!』


『はーい!』











「…とか何とか考えてるんだろうなあ…」


俺はエルフ姉妹に聞こえないような声の大きさで呟いた。


確かにこの戦法にゃイラっときたが、それでもそんなことでキレて隙を晒すような俺様じゃあないんだなーこれが!

俺の怒った顔を見てエルフ妹が勝ちを確信したような表情をしたしな。

悪いが俺は天下の…いや、天上の”火山の悪魔”ヴォルケイオス様だ!

テメェらごときに負けるような男じゃねえんだよ!


「ぶち殺したらあ!!」


俺は怒ったふりをして体に力を溜めるポーズをとる。

奴らには俺が範囲攻撃をしようとしているように見えてるだろうな。


俺のその姿を見て、エルフ姉妹が動いた。

姉が魔法で作り出した光の鎖で俺の体を縛った。

妹が狼に何重にもバフを重ねがけしていく。

そして狼の体が強化魔法の光以上に輝き出す。

特に牙の輝きが特に大きく、その光は闇夜の満月の光のようだった。

そして狼が少し遠くへと走った後、一気に助走をつけて俺の後頭部めがけてその鋭い牙の生えた口を大きく開いた。




「いけぇ!!ルナ!!『銀狼の剣:ナイトエッジ』!!」




まるでサーベルのように伸びた牙による一撃が俺へと繰り出される。

その一撃が俺の後頭部のすぐ近くまで迫り、頭へと食らいつかんとした。






しかしその一撃が到達する前に、狼の体が空中に浮かんで静止した。


否!



地面から噴き出したマグマにその体を絡みとられていたのだ!



一体どうして地面からマグマが!?

もちろん、俺・様・だ!!


あらかじめ、溜めのポーズをした時に俺の周りの地面にマグマを仕込んでおいたのさ!

しかし狼の攻撃は後ろからだった。

どうして後ろからの攻撃に反応できたのか?

そんなの簡単だ。

地面に仕込んだマグマで狼の走る際の振動をキャッチし、それをもとに予測しただけだ!

もちろんそんなこと普通の悪魔じゃあ出来ないだろうな。


しかし!


「残念だったな!テメェらの考えを読むなんざお茶の子さいさいなんだよ!」


俺の言葉を聞いて、エルフ姉妹の顔色が悪くなる!

それを見ながら俺はニンマリと笑ってやった。


「ホットな魂を持ちながら、クールで冴え渡る頭脳を持つこの俺様に勝つなんざ何千年生きたって不可能なんだよ!!」


まるで手のように狼を拘束する吹き出すマグマ。

狼の体から徐々に煙が立ち上る。

狼は苦しそうに鳴き声をあげていた。

狼に手の平を向け、それを徐々に閉じていく。

すると狼の体から出る煙の量が増え、毛皮に火がついていく。

そして一気に手を閉じると、狼の体が炎に包まれる。


「ルナ!!」


エルフ妹が狼の名前を叫んでいる。

それを尻目に炎は数秒の間燃え続け、炎が弱まって完全に鎮火する頃には、狼がいた場所には真っ黒に焼けたゴミしか転がっていなかった。




俺の目の前には、涙を流しながら膝から崩れ落ちた妹エルフと、唇を噛みながら俺を睨みつける姉エルフの姿があった。

いや、その二人の姿しかなかった。

他のエルフどもはとっくに逃げ出してしまったようだな。


俺は首を回しながら指の骨を鳴らした。

ポキポキと骨の鳴る音と、妹エルフの泣き声だけが聞こえる。





「さて、お前らはどう殺してやろうかな…?」










強烈な突風が吹いてきた。


その風に目を細めていると、エルフ姉妹の目の前にだれかが降り立った。

空を飛んできたのか?

俺がそう考えながら目を開くと、そこには他のエルフよりもはるかに美しい金髪のエルフがいた。

真っ白なワンピースを着ており、手にはこれまた黄金に輝く錫杖を持っていた。

そのエルフの背中からは、蝶のような羽が生えていた。


「シ…シズク様…!?」


姉エルフが驚いたようにそう言った。

シズクと呼ばれたエルフは優しい笑顔をしまい二人に向けたのち、俺へと厳しい目を向けてきた。






「ここからは私が御相手しましょう」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る