DRAGON SLAYERS
雷炎
暴食と豊穣のワルツ
第1話 ドラゴンハンター
<央華共和国>南の辺境の街<シェイカイ>
更に南にある港町と都を繋ぐ通り道であり、近くに<暴食の森>を抱えるこの街は交通の要としてそこそこ栄えているらしい。この街でならハンター登録も可能だと聞いたが、この賑わいなら間違いなさそうだ。
道行く人や、露天商なんかに【竜狩り組合】の場所を聞き、
“コロンコロンコロン”
両開きの扉を押しのけて入ると併設された酒場で酒を飲んでいるハンター達が一斉にこちらを見てくる。それを無視して俺達は受付へと向かった。
「ようこそ竜狩り組合へ、本日はどういったご用件でしょうか」
「ハンター登録を頼む」
「承知いたしました。登録するのは貴方だけでしょうか」
「いや、こいつも頼む」
俺の後ろに隠れているナミを指差して言う。
「では、準備をしているのでその間にこの用紙に必須事項を記入してお待ちください」
「わかった。ほら、ナミお前も書け」
「……うん」
それからさっさと記入を済ませて受付の人を待っていると五分程で戻ってきた。
「確認させていただきます。お名前はナギ様とナミ様。職能は【太刀】と【杖】。出身はお二人とも<葦原皇国>。以上でお間違いないでしょうか」
「ああ、合ってる」
“コクリ”
多少は落ち着いたのか俺の隣に立っていたナミが言葉は発さず頷いて返答する。
「承りました。それではこれより別室にて【龍律】の検査を受けていただきます」
受付の人に案内されてついた部屋には部屋の中央に机が一つ置いてあり。それ以外には何もない。机の上に置かれた水晶は真偽判別機能のある特殊な水晶だ。
龍律とは、大気中の竜瘴灰を体内の焔臓が濾過すると生まれる龍力を用いて発動する異能の事だ。生まれつき持っていることもあるが大半が後天的に得ることが出来る。
「この水晶には【予見龍アルファズル】の力の残滓が込められています。この水晶の前で嘘をつくと水晶が赤く光ります。本当のことを言えば青く光ります。これからあなた方二人には己の龍律を嘘偽りなく話してもらいます。勿論秘匿したい龍律があれば答えなくて構いません。申告された龍律のみが組合の記録とハンターカードにに刻まれます。それではまずナギ様からお願いします」
龍律とは体内に生成された焔臓から生成される龍力を消費して発動する特別な力の事だ。ハンターをやるのであれば最低二つは無いと話にならない言われている。
「俺の龍律は【瞬身】【鋭刃】【伸刃】【龍知】の四つだ」
水晶が青く光る。
「記録しました。……それにしても四系統全ての龍律を保有しているとは凄いですね。普通はどれか一系統に偏るのですが」
龍律は国にもよるが基本的に四つの系統に分類される。
身体能力に何かしらの影響を齎す<身変系統>
龍力によってその場に炎や氷などを生成する<具象系統>
人体や道具などの欠損部分を補填する<修癒系統>
そして発動者を中心に周囲一帯の法則を簡易的に書き換える<異法系統>の四つだ。
因みに龍律行使時の龍力消費は<身変系統><具象系統><修癒系統>の順で増加する。<異法系統>は龍律毎に消費が天と地ほどもあるのでこの中には組み込まれない。
「それでは次はナミ様、お願いします」
「……【火球】【氷球】【治癒】【煉獄】【晶域】」
水晶が青く光る。
「……記録しました。最後に何か聞いておくべきことなどはありますでしょうか」
「そうだ。これは使えるか?」
俺は懐から皇国で使っていた組合のカードを出す。
「これは葦原皇国のハンターカードですね。国を跨ぐと生態系が大きく変動する為向こうと同じ等級とはいきませんが初心者よりは上の等級が与え得られると思います。ナギ様が戊等級、ナミ様が己等級ですので恐らくお二人ともE等級を飛ばしてD等級からスタートになると思います」
「わかった。こっちでの等級の説明を聞いていいか?」
「勿論です。皇国がどうであるかはわかりませんがこの共和国ではこの様に区分されます」
E等級……討伐系クエスト受注不可
D等級……下級討伐系クエスト解禁
C等級……中級討伐系クエスト解禁
B等級……護衛系クエスト解禁
A等級……上級討伐系クエスト解禁
S等級……滅龍器保有許可、全クエスト解禁
「滅龍器……」
「あっ! 大変失礼いたしました。お二人の滅竜器を聞きしてよろしいでしょうか」
滅竜器、竜の素材を特殊な金属に練り込んで作られる竜鱗鋼で構成された竜殺しの武器。その更に上に【龍】を殺すための滅龍器がある。
「俺のが戊等級……C等級滅竜器【鬼殺刃チスイ】でナミのが同じくC等級滅竜器【天狗錫カルラ】だ」
水晶が青く光る。
「ありがとうございます。これで登録手続きは全て完了です。ハンターカード発行までしばらくお待ちください」
カード発行までの合間、俺達は組合併設の酒場で時間をつぶすことにした。
「竜蜜柑の果実水二つ」
「はーい! ご一緒にお肉は如何ですかー?」
「いや、今はいい」
「ご承知~」
果実水が来るまでの間、暇なので周囲のハンター達の装備を見分する。【大剣】四割、【大槌】四割、【杖】一割、【その他】一割ってところか。やっぱり
「なあ、あんたら」
「うん?」
いつの間にか後ろに男が一人立っていた。金髪赤眼、こっちの方ではありふれた見た目の男だ。背負っているのはこの建物内だと珍しい【槍】だ。
「その髪からして葦原出身だろ? しかも背負ってるのは【太刀】と来た。そんな珍しいやつ気になるってもんよ。名前は?」
「答える義理も無いし知りたいならまず自分から名乗ったらどうだ」
「おっと悪い悪い。俺はベイモン。こう見えてD等級ハンターなんだぜ?」
「へぇ?」
確かにベイモンの背負っている薄黄色の槍はそこそこの竜の素材でできている。品質的にもD等級というのは嘘じゃないだろう。
「で、何の用だ?」
「せかすなって。てか、俺も名乗ったんだからお前らも名乗ってくれよ」
目線でナミに合図を送るとコクリと頷いた。
「俺の名前がナギ、こっちがナミだ。ご想像の通り葦原皇国出身だ」
「ナギにナミか、そっちのナミちゃんはフードを被って顔が良く見えないが名前も似てるし二人は兄妹か?」
「ああ、そうだ」
「兄妹でハンターとは珍しいな」
「珍しい?」
「ああ、兄弟姉妹でハンターになる奴等は大抵兄弟か姉妹で兄妹とか姉弟のペアは滅多に見ないな」
「そうなのか。葦原じゃ一家全員がハンターになるのが普通だったから知らなかったな。だからこっちの組合はハンターが少ないのか」
「おいおい、一家全員がハンターになるのが当たり前ってどんな国だよ。前に噂で聞いた葦原の話は竜が殆ど居ない天国みたいな国って話だったんだがよぉ」
「ああ、それは……」
「ナギ様! ナミ様! ハンターカードの発行が完了しました。受け取りに来て下さい!」
ベイモンに葦原の話をしようとしたところでタイミング悪く声が掛かってしまった。因みにナミは俺の隣で果実水を黙々と飲んでいた。
「おっとすまない。この話はまた今度しよう」
「おう! 俺はこの街を根城にしてるからまた会おうぜ!」
「ああ。じゃあな」
“ペコリ”
俺が分かれの挨拶をし、ナミが小さく頭を下げてベイモンとはそこで分かれた。
「お待たせしました。こちらがお二人のハンターカードになります。ご確認ください」
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<名前>ナギ
<出身>葦原皇国
<等級>D
<職能>【太刀】
<滅竜器>【鬼殺刃チスイ】
<龍律>【瞬身】【鋭刃】【延刃】【龍知】
<特記事項>葦原皇国戊等級竜狩り
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<名前>ナミ
<出身>葦原皇国
<等級>D
<職能>【杖】
<滅竜器>【天狗錫カルラ】
<龍律>【火球】【氷球】【治癒】
<特記事項>葦原皇国己等級竜狩り
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