第21話 【降臨】
「──【
額に現れし第三の瞳に龍力の鎧。これがシノブの固有龍律【
「うっそろ冗談きついわぁ」
“キシン”が何かぼやいている。
「トリシューラにその第三の眼ってまさか君の“神”ってシヴァ神か? 何でそんな大神が出てくるんや。普通そんな大物龍になってなきゃ可笑しいやろ」
カミとやらが龍になる? 益々持って意味が分からない。
「けどまあ、こうなったらしゃあなしや。本気で行くで?」
再び無数の滅竜器が展開され、それら全てが【
「“壊砲”」
「“蒸域”」
今度はシノブの正面からだけでは無い。全方位からの爆撃に対してシノブはトリシューラを一振りするだけで対処した。
シノブを中心とした半円状の領域、其処に一歩でも足を踏み入れたならば滅龍器であろうと蒸発して掻き消える。
恐らく【光刃】【炎刃】【雷刃】の三属性の刃の力を【浄域】で無理やり拡張しているのだ。触れれば如何なる物でも浄滅せしめる領域として。
「成程成程。確かに僕ら特級渡り人は固有龍律一個しか使えへん。それを補うには滅竜器側に宿る固有龍律を駆使するのが最適解や。滅竜器固有の龍律を四種も連律とか曲芸みたいなもんやけど最高神クラスの力があれば或いは行けるのかもしれへんな」
だが、と“キシン”は続ける。
「そんなんが通用するのは精々僕の造った似非滅龍器か、
“キシン”が新たな滅龍器を呼び出した。そして気付く。これはカイロスの【時運拾弐式・久遠】と同じ類の物であると。それは指揮棒の様な形をしていた。精緻に刻み込まれた紋様が職人の腕の高さを示し、刃も無く鈍器ですら無いそれが至高の物であることを示している。
「【譜法統揮・原初】」
“キシン”が原初を振り上げると虚空より無数の滅竜器が現れ【
「……【オルケストラ】」
宙に浮かぶ滅龍器、その全ての気配が変わった。それはまるで統率された軍隊の様に揺らぎも無く整列し、その身に纏う質とでも言うべき物が一段階も二段階も上昇した。
「“狂想曲第一楽章・刃竜”」
宙に浮かぶ滅龍器の群れが意思を持ったかのように動き出す。小さな刃が寄り集まり牙の様に、杖同士が組み合わさり骨格の様に。全身を常に滅龍器が蠢き脈動する様はまるで本物の竜種。滅龍器で出来た竜種がシノブへと襲い掛かった。
「“蒸域”」
「甘いわ」
「!」
滅龍器すら蒸発せしめた“蒸域”は今回の刃竜に対して何の痛打も与えなかった。滅龍器一本どころかその一欠けらですら“蒸域”の影響を防ぎ切ったのだ。
「“壊砲”」
刃竜が口をパカリと開けるとその口腔の滅龍器の一本が輝きあたかも竜種のブレスの様に解き放たれた。
「シノブ!」
半身になって避けたが一瞬遅かった。滅竜器を持たない左腕が消滅している。
「これ以上続けるかい? 別に今の一撃は特別なもんやない。それこそこの刃竜の肉体が一本でもある限り撃てる汎用技や。そんなんで片腕失った時点で……なんやて?」
「腕が……」
いや腕だけじゃない。シノブの左肩から先、先程の一撃で失われたそれらすべてが完全に再生している。
「【再生】? いや、にしては服まで戻るのは不可解や。それに時間操作でも無い。時間操作はクロノスの領分や。如何にシヴァ神と言えど干渉できる筈が……まさか、いやでもあり得るんか?」
“キシン”が何かに気付いたらしい。
そして先程から攻撃の機会を伺っているが両者共に全く隙が無い。ナミと一緒に事の推移を見守っているが、結界の所為で逃げる事も叶わない。因みに観客は最初の結界に罅を入れた一撃の時点でとっくに逃げてる。残ってるのは参加予定のハンター達や、一部の物好きだけだ。
「よーわからんが、さっさとけりつけさせて貰うで。刃竜!」
再び滅龍器の竜が襲い掛かる。今度は口腔だけでなく指先や牙の幾つかが輝いている。先程の攻撃を連射するつもりだ。
「不快」
「何が不快やねん。対処せんと死ぬで? “壊砲”」
「消えよ。“自壊宣告”」
“ピシッ! ”
「は?」
砕けた。刃竜が、滅龍器で出来た竜がその一言。何のモーションも無く、その言の葉を紡いだ。それだけで砕け散った。
“カランカランカラン”
砕けた無数の破片が決闘台に降り注ぐ。
「こっ!」
殺気! “キシン”から先程まではまるで感じられなかった殺気が噴き出す。目の前の異質な何かを消さんとナニカをしようとしている。それに比例してシノブから漏れ出す気配も膨れ上がる。
「死ね! “狂想曲最終楽章……」
「消えよ。“壊……」
『やめよ』
「「「「!!」」」」
場が凍り付いた。身体が動かない。圧倒的上位の存在による命令。これは……
『全く。様子を伺っていれば何をやっているのだお前たちは』
いつの間にか決闘台の中央に一人の老人が立っていた。
『壊生、肉体の制御権を奪ってどうする。器神も熱くなりすぎじゃ。貴様の目的は壊生では無かろう。此度の降龍祭も無茶苦茶じゃわい』
「……むぅ」
「なんやジジイ。もう出てきたんか」
『現れざるを得なくしたのは貴様らじゃろうて。さて、この場は一度仕切り直すとしようぞ』
老人が天を見上げ何事かと呟く。
『ほっ!』
「!?」
夜が、いや莫大な質量によって央都が完全に闇に包まれた。
『聞け。央華共和国の者達よ。我が名はアルファズル。【予見龍アルファズル】である』
アルファズル!? コイツが、俺達の探し求めた龍だと言うのか。
『此度の降龍祭、横やりで大きく歪んでしまった。だが、ここは我の顔を立てて貰いたい。此度の我に希う者は我が権能を以て本来の勝者を選び取らせて貰う』
天を塞ぐは銀鱗の巨躯。人々は皆等しく畏れ、崇め、敬う。龍に意見する者など居らず、その言霊はしかと受け入れられた。
『さて、これで良かろう』
人型に戻ったオモイカネが話を進める。
『全く、人の輝きを見るのが趣味の我からその娯楽を奪うとは。まあよい。それで、今回は何れの家か』
「はっ! 今回のアルファズル様との謁見の儀はカーリー家にて執り行います」
いつの間にやら現れていた国のお偉いさんと思しき人がオモイカネに説明している。
『ふむ。黒の家か。では行くぞ』
そして景色が切り替わった。
「は?」
『おお、お主は初めて見るか。何、ちょいと我らの位置情報を書き換えただけじゃ。空間転移による負荷等は一切無いから安心せい』
位置情報の書き換え。それはつまり世界において今自分が何処に居るのかと言う情報を上書きしたと言う事。事象の整合性を保つために世界がオモイカネの意思に合わせて俺達の居る場所を変えたのだ。何でもない様に想像を絶する異能を行使する。これが龍……!!
~~~
それから、なんやかんやあって俺達も客としてカーリー家に迎え入れられ各公家の人達も集めて話し合いの場が設けられた。
『さて、先ずは壊生よ。そろそろ眠ると良い。流石にそれ以上は我も見過ごせぬ』
「仕方あるまい。また相まみえようぞ予見」
『ああ、さらばだ』
「……ん? うわ此処何処!?」
すると途端にシノブから発せられていた気配が薄まり普段のシノブに戻った。
『特級渡り人志波忍、我が名は【予見龍アルファズル】。此度の降龍祭の主である』
「は?」
色々と混乱が酷い様なので色々と説明した。
「つまり俺はそこの茂上に殺されかけて固有龍律が覚醒してそいつに意識を乗っ取られたと」
『その通りじゃ』
「なあ、この固有龍律って何なんだ? それに茂上が言ってた“神”、それに俺達特級渡り人その物について」
『順を追って話す話すとしよう。我はその為にこの場に居るのだから』
「では人払いを」
『うむ。どうせ聞いたところで理解出来ない事柄なれど念には念をのう』
「では、シノブ様のお連れの方も……」
『ああ、その兄妹はよい。その者達は聞く権利がある』
「はっ!」
カーリー家の屋敷だと言うのに各家の当主らしき人達を除いて護衛やメイドの人達も全員出て行ってしまった。
「で、そう言う事やジジイ。この子等、“神”を認識しとる上にここでの同席が許されると来た。一体ナニモンや?」
『それもまた順を追って話すとしよう。今は改めて全員自己紹介でもしたらどうだ?』
確かにこの場にいる人々はオモイカネを除いて大体初対面だ。今後の情報整理の為に聞いておいて損は無い。
「最もな意見や。そんじゃ僕から名乗らせて貰いますで。僕は茂上月、葦原皇国の特級渡り人“キシン”や。細かく言えばもっとあるけどこんなもんでええやろ」
「志波忍だ。正直状況がつかみ切れて無いけど、取り敢えずこの央華共和国の特級渡り人らしい。よろしく」
「ナギです。こっちは妹のナミ。葦原皇国からそこの【叡龍オモイカネ】に会いにやって来ました」
「では我々も、私は央華共和国戦のドゥルガー家現当主のライネル・ヴィ・ドゥルガーと申します。以後お見知りおきを」
「わたくしは山のパール家当主のヌシ・ヴィ・パールと申します」
「黒のカーリー家当主、ガノン・ヴィ・カーリーと申します」
ライネル様は好青年と言った印象の三十程の男性、ヌシ様は透き通った青髪が特徴の妙齢の貴婦人、ガノン様はいかにも裏で何か企んでると言わんばかりの腹黒そうな顔のお方だ。
『では語るとしよう。そうだな、初めにこの世界で遥かな昔に何があったのかと言う話をしよう』
「遥かな昔?」
『そう。西暦が終わりを告げ、この真龍歴が始まるに至った経緯。この星の再構築とすら呼べる大災害の始まりである“神々”と世界を滅ぼした獣との戦いの話。今も我等龍が誰一人として忘れる事無く忸怩たる思いに苛まれる黒歴史。そうさな、貴様ら特級渡り人にも分かり易く言うのであればこうだろう。終末の日、
【
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