第22話 【神々の黄昏】
『この世には確かに神々と呼ばれる存在が居た。神とは即ち信仰の具現化、概念の化身、人の上に在りて人無くては在らぬ者達。幾らでも言い様はあるが、要は意思を持った概念の総称じゃ。異なる次元に存在し、人々を見守って来た。
何? 何故神様が本当に居たのに何を願っても何も叶えて得られなかったかじゃと?
貴様はコップ一杯の水をくれと言って海を渡されたどうする? つまりはそう言う事じゃ。神と人とでは同じことをやっても結果に天と地ほどの差が生まれる。行動に対する出力結果が大きすぎるのじゃ。それこそ遥かな神代、まだ神と言う物が成立したばかりの不安定な存在であった時期であれば人々に干渉しても精々結果は最悪でも文明を滅ぼす大災害程度で済んでいた。だが、神格化が安定し、存在の寄る辺としての人の必要性が薄れた後であれば神々は人に干渉出来なくなってしまうのじゃ。
神は天の座より人々の繁栄や栄達を眺め続けた。そして310年前のあの日、
~310年前~
それは人には知覚出来ず、神々の領域のみに影響を与える揺らぎから始まった。その異変を即座に感知した各神話の神格群はそれぞれの大神の元へと集い、その原因を探った。
原因はすぐ特定された。この世界の外より何者かが侵攻を企てていたのだ。世界の脅威となる存在は数多居れど世界の外より侵略を企てられる存在などそうそう居はしない。つまりこれはそんな事を成せる次元を超越した存在からの侵攻だという事。即座に各神話大系の知恵や情報を司る神々はそれぞれの叡智の深淵へと迫りこの世界の外の情報にアクセスし、それが如何なる存在か突き止めた。
それは多次元宇宙に於いて<獣>と呼ばれる災害であった。<獣>とは即ち界喰らいの化け物。世界の根幹を侵す最悪の象徴。ある<獣>は法則を壊し、ある<獣>は歴史を切り裂く。それらであれば人類史に大きな爪痕は残しただろうが対処は可能であった。だが、此度この世界に現れた<獣>はあまりにも
その<獣>の名は<滅神の獣>。神の根幹、世界の礎、万物の基底たる概念喰らいの獣であった。神を滅ぼす。ただそれだけに特化した<獣>に成す術なく神々は蹂躙された。各神話大系の大神達の全エネルギーを統合した究極の一撃を以てして何とか相打ちに持ち込めたが、それまでだった。たった一夜にしてこの星より神の概念は消え去った。宗教が消え去り、天使と悪魔が虚空へと還り、
全ての人は
ただ、
天上にて世界の揺らぎを正し、偏りを直す管理者が失われた世界はそうして滅びを迎える。その筈だった。だがそれは覆された。皮肉にも、世界の滅びの元凶となった<獣>の同類の手によって。
世界より神の概念が消滅した刹那、世界に新たなる<獣>が現れた。最悪なぞ生ぬるい、全人類の不幸を積み上げたとしてもこうは行かないレベルの不運に世界は見舞われた。崩壊して逝く神々は世界を護れぬ事を悔い、恥じた。先の<滅神の獣>によって神と言う名の世界の防衛機構は失われ、そこで新たに現れた<獣>になど対処出来よう筈も無かった。世界は終わるその刹那、望外の奇跡が起きた。現れし<獣>の名は<延冥の獣>。
<延冥の獣>は<滅神の獣>の齎した終わりを喰らって去った。神と言う概念は消えど、世界は回る。そんな歪な世界に対して一人の朽ち逝く神が言った。
「我らの概念を統合し、神に準じる核を持った概念に埋め込み神に変わる新たな存在として成立させては如何でしょうか」
成程と神々は思った。世界を回せるのであれば別に神と言う器に絞る必要は無い。神に変わる新たな入れ物を求めた。
そこで目を付けられたのが竜や龍、或いはドラゴンと呼ばれる概念であった。天使や悪魔程に神に近く無く、巨人や精霊の様に一部神話に偏ることも無く、大抵の神話に存在する普遍的な概念。尚且つ強大な力を持った逸話が多いとくればこれ以上の適役も無かった。神と言う概念が消え、神話が薄れ、神々の区別も最早必要としなくなった。そうして神々は十二の統合概念に圧縮され【世界定礎概念連結生命体:龍】として生まれ変わった。
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『と、これが龍の成り立ちとその概要じゃ。おぬしら特級渡り人が“神”と言う概念を認識し、言葉にできるのは神の概念が失われるより前の時代から来た存在だからじゃ。存在の構成要素に神の概念が混ざっているのじゃ。では、何故そこの兄妹が不完全ながら神を認識しているのかじゃが、それはもうちょっと後の話じゃ。この話にはまだ続きがあるからのう』
『神が龍となり、世界が再構築される。ここまでは良かったのじゃ。だが此処で一つ問題が起きたのじゃ。斃された<滅神の獣>の死骸、神々を喰らいその断片を圧縮した死体から不完全な神の構成要素、概念塵とでも言うべき物が溢れだしたのじゃ。概念人は地上に遍く降り注ぎ、人も、物も、動物も等しく侵し、万物を変質させた。
概念塵に含まる不完全な概念に適合出来なかった生物は等しく死滅し、適合して変質した生物のみが生き残った。ここまで言えばもうわかるじゃろう。概念塵とは即ち竜瘴灰。<滅神の獣>の死骸とはそれ即ち龍月の事じゃ』
『我等龍となった神々は大いに慌てた。何故なら概念の混入とは不可逆の事象。戻す事が不可能な変性が星全土で起きてしまったのだじゃからな。だが、起きてしまった事は仕方ない。それ以上にどうするかと我らは考えた』
『神が消え、万物が変質し、残されたのは新たな生命種と概念塵を基とした【龍律】と言う新たな法則だけじゃった。そこで思い付いた。今、我らは天の座に居る訳でなく、質量を持った確固たる存在として此処にいる。なればこそ我らは試練となろうと。いつか<滅神の獣>の様な何かに今度こそ
『とまあ、これが今現在迄の世界の成り立ちじゃ。何か質問はあるかのう?』
『何故我らを殺す必要があるか? それは殺って見てからのお楽しみじゃ。我らを殺す、それがどういう事か人類がその身を以て考える事もまた進歩よ』
『いい加減そこの兄妹について教えろ? ……全く器神よ、その疑問を我慢出来ない癖は早く治すべきじゃぞ。ここ百年以上言い続けている事ではあるがな。そこの兄妹は恐らく出生の時点で何れかの龍が関わっておる。元が神である龍が関わっているが故に神の概念を不完全ながらに認識できるのじゃろう。そして今の話を聞いた後となっては、もう神と言う言葉は存在に結びついているじゃろう。流石に他の龍の領分に手を出すと後が怖いからこれ以上は言わんぞ』
『さて、ここで最大の問題じゃ。志波忍、お主の固有龍律【
『そもそも特級渡り人の固有龍律とは何か。それは時間移動をする際に【
『さて、ここまで多くの事を語ったが、何か聞きたい事はあるかの?』
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