第18話 到着

あれからこれと言った問題も無く俺達は央都に辿り着いた。今度は最高レベルで警戒をし、危険度が高めの竜種の住処は全て避けて通った。それで多少時間はかかった物の、命には代えられない。因みにシノブは央都に着く直前まで眠り続けていた。どうも例の固有龍律を使用した反動のような物らしい。身の丈に合わない過剰な力を振るった代償だとか。


「彼の肉体はこの世界の人類の中でも下から数えた方が速い程にひ弱だ。龍力で肉体を強化出来ないのだから当たり前の事だが、多少鍛えた所であれ程の力を御せる訳が無い」


渡り人の不変性によりシノブは龍力を得る事が無い。だが、肉体を鍛えることは出来る。不変性が肉体の変化を拒むのではなく筋肉が衰える事を拒む。不変性とは言う物のそ、の本質は宿主にとって害があるか否か、それだけだ。シノブが本能的に忌避感を抱く物だけを拒絶する。だが、物理的な損壊は防げないらしい。そのくせ毒は防ぐのだからおかしな物だ。


「おおお!ここが央都か!」


当の本人は人の気も知らずにハイテンションだ。だが、気持ちもわかる。<シェイカイ>や<ノーキュ>とは比べ物にもならない程の人の賑わい、天を貫かんばかりの巨塔、そして都のど真ん中に設置された名物の決闘台。どれもこれも他では早々お目にかかれない代物ばかりだ。特に都に三つ聳える巨塔は、空を統べる空竜達の猛攻を跳ねのけられると言う自負と実績無しには建てられない。背の高い建物とはそれだけで相応のステータスなのだ。


「あそこに見える決闘台。あそこにもうすぐ龍が降臨する。そしてその龍の前で龍前試合を行ってその勝者には龍に頼み事をする権利が与えられる。頼み事を聞き届けるも無視するも龍の匙加減一つだがな。そしてお前はその龍前試合をスキップ出来る」


「え?なんで?」


「さっきも言っただろうが。今回の降龍祭は龍がお前に合う為に開かれる。だからお前だけは何の苦労も無く龍に合える」


「なんかズルしてるみたいで嫌だな」


「寧ろ当然だと思うけどな。突然別の時代に呼び出しておきながら、説明の一つも無いってのは割に合わない」


「それもそうか」


「そう言うもんだ。祭りはもうすぐだ。それまでしっかりと休んでおけ。いざって時に力が出ないのは笑い話にもならないからな」


「わかった」


先程まで眠り続けていたシノブだが、明らかにまだ不調だ。こいつにはしっかり休んでもらわないと困る。

それから、シノブを宿に預けてからナミと一緒に央都を歩いて回った。流石は大陸国家の首都と言うだけあって尋常じゃない程に広い。決闘台を中心とした円状に広がる街並みは三方向の巨塔へと延びる大通りによって三つに区切られる。大まかに分けるとハンター協会や滅竜器を扱う工房などが立ち並ぶ戦闘街、多くの商店や露天んの立ち並ぶ商業街、住人の家らしき建物が多く立ち並ぶ生活街、そしてそれら三つの更に外、外壁の内側を囲う様に並ぶ明らかに堅気ではない者達や、やけにボロボロだったり塗装の禿げた家が立ち並ぶ貧民街。

こういった街は外に近づく程に竜種に種に対する危険度が高まる為に外周が貧民街なのは納得だが、恐らく三公家の物と思われる巨塔が中心と外壁の丁度中間あたりに建っているのは意外だったが、近づいてみて分かった。これら三つの塔は巨大な陣の要なのだ。大地の龍脈から龍力を吸い上げ、それを糧に都市を覆う大結界を構築している。詳しい仕組みまでは流石に分からないが、この三つの塔がある限りこの都はそう簡単に落ちないだろう。

散策序にここの滅竜器を扱う工房に寄ったが、特にこれと言って目ぼしい物は見つからなかった。強いて言うならば、俺達が来る少し前に俺達同様黒髪黒目の青年が等級の低い滅竜器を買い漁ったらしく、仲間かどうか聞かれた位だ。どうも件の青年は幾つもの工房を梯子して低等級の滅竜器を買い漁ったらしい。在庫処分にもなって有難いが、何故あんなにも大量に滅竜器を買い集めていたのかと行く先々の工房で店員達が首を傾げていた。


「誰、だろうね」


「少なくともシノブじゃ無いな。訛りとか全然違う様だし、買い漁る理由も無い」


「“千切り”のベンケイ?」


「それこそまさかだろ。あの人が皇国を離れる訳がないし、あの人が買い漁るなら最低でもB等級滅竜器からだ」


「そう、だね」


ナミの口数がいつにもまして少ない。過龍症の影響だろうか……。


「宿に戻ろう。シノブも気になる」


「……うん」


その後、宿に戻った所、シノブが宿の食材を食い尽くす勢いで元気にご飯を食べていたとだけ言っておく。


~~~


「いよいよ今日だな」


「ああ、今日この央都に【叡龍オモイカネ】が降臨する。そしてオモイカネの御前で決闘を行い、その優勝者と今回の特級渡り人にはオモイカネに頼み事や願い事をする権利が与えられる。お前も俺も奴に聞きたいことがある。だから俺はお前をここまで鍛えて常識や知識を教えた事を対価にオモイカネに質問する際に同席する権利を貰う」


「ああ、わかってるよ。よくわからんけどナミちゃんの病気の事なんだろ?んな事なら言われるまでも無く一緒に会うっての」


「悪いな。途中からとは言え俺はお前を利用した」


「寧ろ感謝したいね。打算ありきと言えど唐突にこんな場所に飛ばされた俺を最低限生き残れる様にしてくれたんだから。オモイカネには俺からも頼んでみるよ。お前たちの願いを聞いてくれってな」


「……ありがとう」


「だぁっ!へりくだんなよ、俺達仲間だろ!」


「そうだな」


心の中でもう一度感謝を言ってから俺達は央都の中央、決闘広場へと向かった。


~~~


『さあさあ、やってまいりました降龍祭!遂に我らが央華共和国にも特級渡り人が出現したと言う事で急遽開かれたこの降龍祭ですが、当然の様に各地から猛者が集まっております!今回の降龍祭には何と三公家の当主全てが集まっております!惜しくも決闘に敗れたとしても三公家の目に留まればそのままお抱えハンターも夢ではない!気の急く方も多いでしょうから早速今回の決闘のルールの説明に移らせて頂きます!』


決闘台のある決闘広場、正確には都のど真ん中に設置された正方形の台座を囲う様に展開された幾段もの観客席を見下ろす形のこの場所はシノブ曰く闘技場と言う物に近いらしい。皇国で決闘と言えば相手に決闘状を叩きつけて斬りかかるのがセオリーだったのでルール無用ではない決闘には興味がある。


『ルールは簡単!<系統外>を除く如何なる龍律の使用も可!滅竜器の使用も可!相手を戦闘不能にするか決闘台から叩き落した方の勝ちとなります!勝負はトーナメント形式で行い、優勝者には【予見龍アルファズル】様との謁見及び願いをする権利が与えられます!尚、今回の特級渡り人は何処だと言う質問ですが我々も知りません!で・す・が!特級渡り人の出現に伴って行われる降龍祭は【運命龍フォルトゥーナ】様によって管理されているので役者は必ず揃う様になっておりますので心配ご無用!』


改めて聞けば酷い話だ。自分で呼び出しておきながらその後の行き先まで制限されているのだから。今ここにシノブが居る事は必然なのだ。たとえあの時カンファートに勝とうが負けようが、俺達に鍛えられる事があろうと無かろうと、どんな道を辿っても、今日この降龍祭の場に現れオモイカネと話す。そう決まっていたのだ。他者の運命を操り、それを一意に定める。それが【運命龍フォルトゥーナ】としての力だそうだ。

そんなことを考えている間に早速トーナメントが始まったらしい。王道の剣の滅竜器使いとこれまた王道の杖の滅竜器使いが戦い始めた。既に何処かからかオモイカネが観測しているらしく、場は異様な気配で満たされている。そんな事に一ミリも気付かないシノブが呑気に話しかけてきた。


「そういや、今更なんだけど【龍殺しドラゴンスレイヤー】と【竜狩りドラゴンハンター】ってどう違うんだ?」


「そう言えば説明していなかったな。区分けとしては単純にS-等級良業物以上の滅龍器を持っているか否か,

それだけで区別している。別に【龍殺しドラゴンスレイヤー】だからって龍を殺した事がある訳じゃない。と言うか、今この世界に龍を殺した【龍殺しドラゴンスレイヤー】なんて


「え?それじゃあ何で【龍殺しドラゴンスレイヤー】なんて言うんだよ」


「それは【龍殺しドラゴンスレイヤー】が願いだからだ」


「願い?」


「この星は十二体の龍によって全て支配されている。空も大地も、海も、國も、生も、死も、時間や空間、運命だって龍の物だ。だからこそ【龍殺しドラゴンスレイヤー】は願われる。どうか、どうか龍を殺しこの星を再び人の手に取り戻してくれと願われている」


「はあ?なんで支配者の龍まで願ってんだよ」


「その理由は俺も知らない。だが、初めて人と龍が邂逅した時に龍達は口を揃えてこう言ったそうだ」


──人よ、星に遍く蔓延り星の彼方まで開拓せんとした愛すべき叡智の子等よ。どうか我等をいつの日か打倒し、この星に再びの安寧と繁栄を齎し給へ


「つまり龍達は自分達が人に殺されるのを待っているのか?」


「そう言う事だ。S-等級滅龍器良業物S等級滅龍器大業物の違いがなんだか分かるか?S-等級滅龍器良業物は龍が自然に落とした言わば老廃物に近い素材から造られた滅龍器。そしてS等級滅龍器大業物は龍がどうか自分を殺してくれと滅龍の力を込めて力ある人に託した素材から造られた滅龍器だ」


「成程。……ん?ならS+等級滅龍器最上大業物ってのは何で出来てるんだ?」


S+等級滅龍器最上大業物は正真正銘のから造られた滅龍器の呼び名だ。現在世界にただ一つだけあるとされる最強の滅龍器の事だ」


「最強の滅龍器!……あれ?でもさっき誰も龍を殺したことが無いんだろ?じゃあ何で龍の死骸から造られるS+等級滅龍器最上大業物があるんだよ」


「いい質問だ。その答えは単純だ。即ち人では無く龍を殺せる存在、同じ龍に殺されたんだ。十二なる邪と悪逆の龍、大陸では【邪龍アンラ・マンユ】と呼ばれ俺達葦原皇国人は【禍龍マガツヒ】と呼ぶ龍はな」

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