降りたるは壊生、憑くは器
第12話 特級渡り人
あの後本当に色々とあった。街で再開したベイモンには謝り倒されるし、帰って来たと思えば一人増えててコイツあ誰だとひと悶着あり、宿に戻って休もうかと思えばナミに強く抱き着かれて動けなくなってしまった。
「心配かけたな」
「大丈夫、信じてた」
「そうは見えないけどな」
「信じてても怖くない訳じゃない」
「……ごめんな」
その夜は久しぶりに二人で同じベッドで寝た。
~~~
翌朝、組合の部屋を借りて寝泊まりしたシノブと合流した。
「改めて志波忍だ。渡り人ってやつで目標は【時龍クロノス】をぶっ殺す事だ。よろしく」
「ナギだ。こっちは妹のナミ。【叡龍オモイカネ】又は【予見龍アルファズル】と呼ばれる龍を探している」
「こんにちは」
「はいこんにちは。俺はこの後ここでハンター登録をするんだがカイロスさんの立会いのもとでやれって話でよぉ。暫く暇なんだ。よかったら色々教えてくれないか?」
「いいぞ。立ち話もなんだからそこの酒場で話すか」
~~~
朝食もかねて一通り注文を終え、シノブの質問に答える事になった。
「まずそもそも龍とか竜種、竜獣ってなんだ?」
「龍はかなり特別だから一旦置いておくとして竜種と竜獣についてだな。前提としてこの星は大昔にある天変地異を迎えたんだ。その名も龍月」
「ここでもまた龍か」
「この星の衛生上に突如として現れた二つ目の月は地上に向かって竜瘴灰と言う汚染物質をばら撒いた。竜瘴灰は龍因子と呼ばれる物を多分に含んでいいた。これに触れたら生物、非生物、無機物、有機物問わず万物が汚染された」
「具体的には?」
「飲めば身体を穿つ水、突如として以上に膨張する金属、音速で突撃する猪等々文字通りに万物が狂った。この時に多くの生物が絶滅に瀕し、淘汰された」
「んでその時に残ったのが竜種と竜獣、それに俺達人間か」
「そうだ。龍因子に不完全ながら適合し、身体の一部に竜鱗を持ったり火を吐ける等の不完全な龍律を扱える様になった獣が竜獣。龍因子に完全適合し、龍律を自在に操る獣が竜種。そして龍因子に意思の力で打ち克ち肉体に様々な因子を発露させたのが人類。人類は厳密には意思のある異形や妖怪に当たるんだがそれはまだ良いだろう」
「成るほど成るほど。という事は俺が渡り人の不変性ってやつが無かったらどうなってたんだ?」
「全身に竜鱗が無秩序に生えて不完全な焔臓から生じた龍力に身体を焼かれて死んだんじゃないか」
「こっわ」
「話を続けるぞ。お互いご執心の龍についてだ」
「おう」
「まず龍とは何ぞやという話だが強いて言うなら生きた現象だ」
「生きた現象?」
「そうだ。存在するだけで世界を侵し、異界を生み出す程の龍力出力を誇る現象そのもの。各龍が持つ龍律は通常のそれとは次元が異なる」
「例えばどんなのがあるんだ?」
「有名なので言えば一なる大地の龍たる【地母龍ガイア】の龍律【
「なんだその頭のおかしい力は……」
「残念ながら、お前の抹殺対象の十なる時間と運命の龍たる【時龍クロノス】又は【運命龍フォルトゥーナ】の龍律は俺は知らない。後でカイロスさんにでも聞いてみてくれ」
「さっきから聞いてて気になったんだがその「一なる~」とか「十なる~」とかって何なんだ?」
「ああ、すまん忘れてた。龍は発生した順番で番号が振られている。俺の知ってる別名と龍律を含めて書き出すとこんな感じだ」
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Ⅰ【地母龍ガイア】【地龍エンキ】
・【
Ⅱ【予見龍アルファズル】【叡龍オモイカネ】
・【
Ⅲ【空龍エア】【天龍アイテール】
・【
Ⅳ【祖龍イザナギ】
・【
Ⅴ【黄泉龍イザナミ】【冥龍エレシュキガル】【幽冥龍エレボス】
・【
Ⅵ【火龍アフラ・マズダー】【日龍アマテラス】
・【恵みと渇きの対光】
Ⅶ【悟龍ブッダ】
・【仏眼】
Ⅷ【能龍ゼウス】
Ⅸ【海龍ティアマト】【海原龍ワダツミ】【洋龍ポセイドン】
・【
Ⅹ【時龍クロノス】【運命龍フォルトゥーナ】
Ⅺ【暗龍テスカトリポカ】【月龍ツクヨミ】【夜龍ニクス】
Ⅻ【邪龍アンラ・マンユ】【禍龍マガツヒノ】
────────────────────
「……とこんな感じだ。これらは時間や方位にも当てはめられてるから後で調べとくといい」
「おう、にしても龍ってみんな神様の名前をしてんだな」
「カミ?」
「おはよう諸君。昨晩はよく眠れたかい? 早速だけどシノブ君のハンター登録に行かせてもらうよ。あっ、お会計? 後で僕が払っておくよ。時は有限だからね」
シノブと話しているといきなり現れたカイロスに背を押されて受付まで来てしまった。……にしても流石は【
~~~
「それでは【
シノブの登録は俺達が登録した時にやった事とさして違いは無かった。因みに普通登録に部外者を招き入れる事は無いが、シノブは成り立がかなり特殊であるためカイロスが立ち会うとの事だ。また、今後シノブとそれなりの付き合いになるであろう俺達にも立ち会って欲しいらしい。何故俺達とシノブの付き合いが長くなるのかは疑問だが。
「さて、次は龍律の登録だが此処が大きな問題だ」
「問題?」
「そうだ。君は特級渡り人。つまりその不変性により龍因子を拒絶する。それはつまり龍力による身体強化などが出来ず、そもも龍力を生成する焔臓を持っていない。それはつまり」
「ハンターにとって必須の技能、龍律が使えない」
「その通り」
「え、じゃあ俺ハンターになっても直ぐ死ぬって事?」
「ところがどっこい。特級渡り人が何故特級なんて仰々しい呼ばれ方をするのかに繋がるんだけど、君達西暦人の渡り人は皆何故か一つだけ固有の龍律を持っている。それが昨日僕が言った特別な力だよ」
「俺の、俺だけの力」
「君は感覚的に気付いている筈だ。自分の内に宿る未知の力に。そしてその名前も、使い方も理解出来る筈だ」
「……おお、おお! 感じる、感じるぞ。これが俺の……?」
何か力の高まりの様なものを感じていたシノブが突然首を傾げ始めた。
「どうしたんだい」
「確かに俺の中には力がある。だけどこれが何なのか全く分からなん」
「そんな馬鹿な。渡り人は今まで誰一人として例外無く自分の龍律を理解していた。……これは一体どういう事だ?」
カイロスが思考に没頭して動かなくなってしまった。余程の例外が起きたのだろう
「俺が視ようか?」
「うん? どういう事だ?」
「俺の龍律【龍知】は相手の同意があればそいつの龍律を視る事が出来る。これでおまえの龍律を確認できる筈だ」
「成るほど。頼む、やってくれ」
「わかった。……【龍知】」
────────────────────
<名前>志波忍
<龍律>【
────────────────────
「……読めない」
何だこれは。今まで沢山の龍律を視てきたが読めない龍律なんて初めて見た。
「確かにシノブには一つだけ龍律がある。だが読めない」
「系統は、系統は分からないか」
カイロスが何故こうも慌てているのかは分からないが確かめてみよう。
────────────────────
【
<系統外>龍律
────────────────────
「<系統外>だ。また本当にレアな奴だな」
「<系統外>?」
「龍律は基本的に<身変系統><具象系統><修癒系統><異法系統>の四つに分類される。例えば俺が今使った【龍知】は<異法系統>に分類される。これは【龍知】が俺自身に適応される法則に『龍因子を持つ物に対する情報を可視化する』という物を付け加えるからだな。系統に関する説明は後にするとして、何か参考になりましたか?」
「……ああ。非常に参考になったよ。詳細は説明出来ないがすまない。僕は早急にこの事について都に戻って報告する必要が出来てしまった。もしシノブ君の龍律について詳細がわかったら組合を通して僕に連絡をくれ」
そう言うが早いかカイロスは最低限の用事を済ませて都へ向かってしまった。
「そんなに俺の龍律が不明なのが問題だったのかなあ?」
「詳細は知らないが今すぐに危険な物では無いみたいだし気楽に考えておくといいぞ。それに時間が経てば詳細がわかる様になるかもしれないし」
「そうだな。所で俺、カイロスさんに当面の金は貰ったんだが働き口は組合以外無いんだわ。……つきましてはハンターのノウハウとか教えてくれないか? 勿論報酬は出す」
「それは構わないが俺達ももう暫くしたらこの街を発つ予定だからベイモン達に頼んだ方が良く無いか?」
「へ? お前らが旅人ってのは聞いてたけどそんな直ぐに移動するのか?」
「ああ、実はな。カイロスさんが去り際に言ってたんだが──」
──もう暫くしたら央都に【予見龍アルファズル】が現れるらしいんだ。
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<名前>志波忍
<出身>日本(古代葦原皇国)
<等級>───
<職能>───
<滅竜器>───
<龍律>【
<特記事項>特級渡り人
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