第2話 竜兎討伐クエスト
ハンター登録を済ませた俺とナミは、旅の疲れもあったのでクエストは受けず、そのまま近くで宿を取り一晩過ごした。
翌日の朝早く、俺達はクエストを受ける為に組合を訪れていた。
────────────────────
【常設/D】竜兎の討伐
<暴食の森>に生息する竜兎を狩り、その肉を納品してください。焔核は別途買い取ります。
【報酬】一頭につき一万ロン(※肉の状態によって報酬額の増減あり)
────────────────────
────────────────────
【常設/D】ローユ草の採取
<暴食の森>に群生するローユ草の採取し、納品してください。五本一束から受け付けます。
【報酬】一束につき千ロン(※状態によって報酬額の増減あり)
────────────────────
こっちの生態系に慣れていない俺達にはこの辺りの常設クエストが丁度いいか。
「ナミ、この二つの常設クエストを受けるのでいいか?」
「うん……」
さっさと手続きを済ませた俺とナミは<シェイカイ>近隣の<暴食の森>へと向かった。
~<暴食の森>~
<暴食の森>は最奥部に住む【暴食竜グラトニー】の影響で土地の栄養価が非常に高く植物も生物も非常に多く生息しているらしい。だが、その弊害に植物の生長が早すぎてハンターが通った獣道が直ぐに失われてしまうらしい。故にC等級以上のハンターには道の切り拓きクエストが発行されるとか。
「チッチッチ!」
「出たか」
俺達は生い茂る木々をかき分け、時に斬り落としながら進んでいた。そしてようやくお目当ての獲物に遭遇した。
────────────────────
【竜兎】
竜獣の中でも最弱の一つに数えられる討伐難度E-の竜獣。元となった兎という種の特徴であった跳躍力に多くの龍力を費やしている。焔臓が不完全な個体が多く、その大半が龍力を跳躍力にしか使わないが、稀に完全な焔臓を持ち【小炎】の龍律を使う特殊個体が居る。これは【火竜兎】と呼ばれ、討伐難度Eとなる。
焔臓が不完全な為、その肉体から得られる素材は非常に少ないが、龍力を集中的に回されている脚部の肉は非常に絶品である。
【獲得可能素材】
E等級焔核
竜兎の脚肉
【特殊個体素材】
D等級焔核
────────────────────
これが竜兎にまつわる情報だ。俺の龍律【龍知】は龍因子の含まれるあらゆるものの情報を知ることが出来る。ここに記されている情報は組合で閲覧できる【滅竜碌】に書かれている事と同じだが、駆け出しハンターに合わせてこの記述も加えるべきではないだろうか。
───尚、余りにも常識的な事であるため明記されることが無いが、竜兎は全長二メートルを超えるサイズである為、狩る際には圧死に十分気を付ける事。
目の前にいる個体のサイズはおおよそ二メートル。ごく一般的な個体だ。
「ナミ、狩るぞ」
「うん」
「チチチ!」
竜兎が威嚇音を発するがその程度でビビることなんて駆け出しでも無ければ先ず無い。
「おら!」
ナミを後退させ反時計回りに回り込んで後ろ脚を斬りつける。
「ヂィッ!!!」
痛みで動きが鈍る。
「ナミ!」
「……【火球】」
“ボウッ”
動きの鈍った竜兎の顔にナミの火球が直撃する。
「ヂヂヂヂヂィィィッ!!!」
顔の半分に大火傷を負った竜兎の動きは完全に止まった。
「【伸刃】」
<具象系統>龍律【伸刃】。龍力で紛い物の刃を生み出し実際のそれより刃渡りを伸ばす。竜獣にしろ竜種にしろ兎に角身体の大きな生物を相手にする際にこの龍律はとても有用だ。特に俺の様に斬撃に特化した【太刀】なんかの滅竜器の使いにとってはな。
“ズシン”
胴体と泣き別れした竜兎の頭が地に落ちる。どういうわけか竜獣の頭部の肉は非常に不味く、とても食えたものではないので胴体部分を納品すればいいだろう。
「ナミ、収納」
「うん」
ナミが背負っていた鞄を置き、その口を未だに血の滴る竜兎の胴体へ向ける。
するとどう考えてもサイズ比があっていないのに竜兎の胴体は綺麗に鞄の中にのみ込まれた。この亜空鞄無くしてハンター稼業は成り立たないというものだ。
────────────────────
【亜空鞄】
竜栗鼠などの体内に餌や獲物を蓄える性質のある竜種や獣竜の頬袋や胃袋を鞣して作られた鞄。材料となった生物が【拡張】の龍律を持っている故か見た目以上に物が入るという性質がある。
竜獣の素材で作られた亜空鞄は、入れた量そのままの重量になるが、竜種の素材で作られた亜空鞄は重量が変化しない性質がある。
また、どういうわけだか容量に収まるのであればどんなに大きなものでも収納出来る性質があり、かつて葦原皇国で行われた皇都変遷の際に【亜空竜】の特殊個体である【異空竜】の素材で作られた鞄が都一つそのまま収めたという記録がある。
────────────────────
竜兎を一匹狩った俺達は竜兎の強さの程度も知れたのでサクサクと狩ることにした。
因みに亜空鞄はナミが背負っている。いつも俺が持つと言ってるのだが頑として譲らない。兄としては妹に重い荷物を持たせるのはアレなのだが、「機動力の高いナギが動きやすくしておく為」と言われてしまえば上手い反論も思いつかず渋々ナミがに運び役となっている。
「龍力に余裕もあるし俺が刎ねて回る」
「わかった」
俺の龍律である【瞬身】【鋭刃】【伸刃】の三つを組み合わせることで大技のような物が使える。俗に連律と呼ばれる技術だ。
「連律・刎ね廻り」
【瞬身】で彼我の距離を一瞬で詰め、【鋭刃】で刃の切れ味を上げ、【伸刃】で伸びた刃で一刀のもとに敵の首を刎ねる。
綺麗に決まって見事に竜兎の首を刎ねることが出来た。
「こいつくらいの肉質なら【鋭刃】は要らないな」
その後も順調に竜兎の首を刎ね、淡々とクエストをこなしていく。もう一つのクエストであるローユ草の採取は本当にそこら中に生い茂っているので竜兎の痕跡を探す傍らで相当な量が集まっている。これもひとえに亜空鞄のおかげだ。
「ん?」
「ナギ?」
「今物音がしたような」
「…………微かに聞こえる。多分戦闘の音。天空の方角」
「了解」
音を立てない様に慎重にかつ素早く移動する。近づくにつれて明確に音が聞き取れるようになる。誰かが戦っている音だ。
木々をかき分けてそこを見れば見覚えのある背中が見える。
「クソ! なんだってこんな浅層に竜蛙どもが来てんだよ!」
身の丈ほどもある槍を振り回して竜蛙とやらを追い払っているのは昨日合ったベイモンだ。ベイモンが相手をしているのは身体の各所に不完全ながら竜鱗を纏った全長二メートル程の大蛙。それも二匹だ。
「うげっ!? やっば……」
その時、運悪く足元に転がっていた石に足を取られベイモンのバランスが大きく崩れた。
「【瞬身】」
「おおう!? おお! お前昨日の!」
ギリギリ滑り込んでベイモンに迫る竜蛙の攻撃を防ぐことが出来た。
「助太刀はいるか? 勿論分け前は貰うが」
「頼む! 流石に二対一はきちいわ」
「任された。ナミ」
「うん【火球】」
ナミが【火球】でけん制している間に竜蛙に近づき先ずは一太刀。
“スブッ……ボヨンボヨン”
「うへぇ……めんどくせえ」
「竜蛙の肌は割れないゴム風船みたいなもんだ! 打撃も斬撃もあんまり効かねぇからここらのハンターは大っ嫌いな竜獣の一体だ!」
「確かにこれは面倒くさいな」
打撃も斬撃も今一つなら有効手段はベイモンの槍の様な刺突、若しくは……
「【氷球】」
ナミの様な龍律による攻撃だ。
「そのまま連続で頼む」
「うん」
竜蛙に何発もの【氷球】が当たる。多少どころではなくよく効いているのは【氷球】の齎す冷気の所為だろうか。所詮は変温動物ということだ。
「【鋭刃】……これなら通るか」
刃の切れ味を上げる【鋭刃】ならなんとか刃が通るようだ。冷気で動きも大夫鈍っている。これなら行けるか。
「連律・刎ね飛ばし」
“斬”
どうやら動きが鈍って体表が【氷球】によって硬くなっていればその弾性を無視して首を刎ねられるようだ。
振り返ってみれば丁度ベイモンがもう一匹の竜蛙の喉に槍を突き刺して絶命させたところだった。
「ふう。いやぁ助かった助かった。確かナギとナミだったよな? 良ければこの後飲みに行くんだが一緒にどうだ? もちろん俺の奢りだ」
ナミの方を見てみるとコクリと頷いていた。
「せっかくだからご相伴にあずかろう」
「ゴチに……なります……」
「いやぁはっはっは! 勿論ドンドン食え!」
こうして俺達はちょっとしたイレギュラーがありながらも共和国に渡って来て初めてのクエストを終えて<シェイカイ>の街へ戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます