第7話 わの村の戦い

そして半年が過ぎ、秋になり西風の吹くある日、わの村の沖にそと人達の舟が現れた。


帆を張った三十艘を超える舟が、まっすぐにわの村の浜に漕ぎ寄せてきた。

乗っている男たちは、鎧を着て、盾と弓矢、青銅の槍、刀を煌めかせていた。


これを見たわの村の男たちは、女子供を山へ逃がし、わの村の長のワトを先頭に年長の男達三十人が、弓矢と槍を持って、わの村を見下ろす丘の上の石塁に集まった。


三百を超えるそと人の兵士達が、浜に上がってきて盾を構えた。そして大きな弓を構えて、石塁に向かって矢を一斉に放った。

そと人達の矢は石塁を高く飛び越え、雨のよう降り注いだ。石塁の中の男たちは、上からの矢に頭や肩、腕を射抜かれ、半数以上が倒れた。わ人が放つ矢はそと人達には届かなかった。

そと人の兵士達は密集隊形を作り、エイ、エイと声を上げて石塁に近づいてくる。そと人の数人が、石塁近くの落とし穴に落ちたが、そと人の兵士たちは構うことなく石塁の中に侵入してくる。

マサの父親のハサは矢傷を負いながら、近づいてくるそと人の兵士につき槍を投げた。先頭のそと人の胴に突き刺さって倒れる。ハサは他の者を逃がすために、倒れるまで突き槍を投げ続けた。

逃げ延びた数人の男たちは、女子供が逃げ込んだ山に向かい、これを知らせた。

女子供は身内の不幸を嘆きながら、さらに山の奥へと向かう。


わの村の男たちは近くの村へ知らせに走った。山道を走り続けて隣村にたどり着き、その村の長に、大勢のそと人が来て、わの村を襲った事を知らせた。その村も女子供を山へ逃がし、男たちが西や東の近隣の村へ、そと人が来たという知らせを走らせた。


そして、その日のうちに村々に知らせが行き、わの村と合わせて百五十人の弓矢と槍を持った男たちが集まった。男たちは相談して、わの村に向かい、三百人はいると思われる敵を襲う準備を始めた。


すぐに攻めかかるべきだという意見もあったが、相手は人数が多い。山道に誘い込んで、待ち伏せて仕留めるべきだという意見が多かった。そこで、まず、わの村へ向かう山道で、落とし穴や罠をいくつも仕掛ける。


そと人達の大きな弓と戦うために、木の盾を用意する事になった。盾などは、鹿や猪を狩るときには不要で、わ人達は作った事がない。しかし、飛んでくる矢を防ぐには、木の盾が必要だ。近隣の村へ使いを走らせ、木の盾を作る事になった。家の扉、敷板等の使えそうな板をかき集め、いくつもの縄でくくって、取っ手をつける。そんな用意に走り回っているうちに、その日は暮れていった。


足の速い若者が、わの村へ物見に行った。その若者は帰って来て、わの村にはそと人がいないと言う。という事は、夜にわ人達が襲ってくるのを用心して、舟に戻ったという事だ。



翌日の朝になった。


わ人達の中で、木の盾で矢を防ぐことができれば、石塁でそと人の兵士を追い返せるという意見が出た。結局、まず石塁で待ち構えて戦い、機を見て山に逃げる様子を見せて、落とし穴のある山道へ誘い込もうという事になった。


わの村を見下ろす丘の上の石塁に、急ごしらえの木の盾を持った五十人のわ人達が、多くの投げ槍、突き槍を持って、そと人達を待ち構える。石塁の後ろの森の中では、弓矢の得意な者たち百人が、森に近づくそと人達を狙う。


昼近くになり、前日の三十艘を超える五十艘近いそと人達の舟が現れ、わの村へ向かって押し寄せてきた。五百人のそと人の兵士達が続々と浜に上がってきて盾を構えた。そして、まず石塁に遠矢を放ってくる。わ人達は、降りそそぐ矢を木の板の盾で防ぐ。


五百人のそと人達が横長の隊形を作り、エイ、エイと声を上げて、盾の後ろから遠矢を放ちながら、石塁を取り囲むように近づいてくる。わ人達は、石塁を囲まれ、森に退く機会を失った。


そと人達は、わ人の矢、投げ槍を盾で跳ね返し、四方から、石塁の中に突入してきた。

わ人は槍で戦うが、そと人達は、わ人の突き出す槍を金属で出来た刀で切り払い、切り付けてくる。わ人のほとんどが、首を切られたり、腕を切られたりして倒れた。そと人達も数人が、わ人の槍に突かれて倒れた。


そと人達は、倒れたわ人達にとどめを刺し、戦う事をやめた十人のわ人を、縄でくくって捕虜とした。そして、鯛島から連れてきた島人に、そと人の言葉をわ人の言葉に変えさせてこう言わせた。

「このそと人達は、しばらくここにとどまる。これは海が荒れているので仕方ない。お前たちがそと人に従えば、残りの村人は殺さない。村人に食べ物を持ってくるように伝えよ。と言っている。」

そして一人のわ人の若者の縄を外して、鯛島から連れてきた島人にこう告げさせた。

「おまえが村に行って、そと人の言葉を伝えよ。伝えよ。日が傾くまでに食べ物を持って帰ってこなければ、捕らえた仲間を一人づつ殺す」


年少の者は、わ人達のいる山へ走り、これを伝えた。

山に入ってくるそと人の兵士を迎え撃とうとしていたわ人達は、人質を取られ、しかたなくそと人達のいう通りに、食べ物を届ける事にした。


その日から毎日、わの村の人達は、そと人達へ食べ物や鍋、薪などを届けた。

その後、そと人達は、毛皮や布を持ってくるように言い出した。


ひと月が過ぎても、そと人達は、わの村から出て行かなかった。

ふた月が過ぎても、そと人達が人質をとってわの村に居座る状況は変わらなかった。


そしてその間に、そと人達の舟は度々、わの村の人達が届けた食料、布などを積み込み、西に向けて出航していった。


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