第18話 ワヒ国での戦い2

ヤマタイの兵達は、川や海で魚を獲り、山へ入り獲物を追いはじめる者もいた。ワヒ国の城に対しては、攻める気配もなく、ヤマタイの三千の兵は、ただ休養しているように見えた。


その後も、ワヒ国とヒタ国の兵達は、城から出てヤマタイの陣営に夜襲をかけたが、待ち受けたヤマタイ兵の矢に射られるだけだった。


ワヒ国とヒタ国の兵は、村の家々で居座るヤマタイの兵に手の出しようもない事に、歯ぎしりをする思いだった。城の周りの山にもヤマタイの兵が出没し、山から城への補給が滞る様になっていた。ワヒ国の兵と人々は打つ手がなくなり、窮地に追い込まれた。



その状況は七日後に大きく変化した。

ワヒ国の入り江に、マツラ国の三十艘の大船が大弓を並べて来援したのだ。マツラ国の兵が敲く太鼓が、ワヒ国の浜辺から山々迄、大音量で響き渡った。そして、大弓から無数の石が放たれ、ヤマタイの兵達が陣取る集落に豪雨のように落下し、住居やヤマタイの兵を粉砕しはじめた。


マツラ国が救援に来た事に驚愕したヤマタイの兵達は、マツラ国の兵が浜に上陸する前に、急いで退却を始めた。「ドスン、ドスン」と容赦なく降り注ぐ石の雨から逃れようとするヤマタイの兵は、慌てふためいき、集落から離れて、城に近づいてきた。そこへ、待ち構えていた城の大弓から、一抱えもある石が次々とヤマタイの兵馬に向かって飛んでくる。ヤマタイの兵達は大混乱となり、来た時と逆の道を通り、砦のある峠を目指し先を争って逃げ出していく。


この時、ワヒ国とヒタ国の兵は機を逃さず、城から打って出て、逃げ遅れたヤマタイの兵達を仕留めていく。多くの死体を残し、残りのヤマタイの兵達は、ワヒ国とヒタ国の兵の追撃をかわし、峠を越え、北の地に逃げ去っていった。


こうして、ワヒ国はヒタ国とマツラ国の来援によって救われた。

ワヒ国の浜に漕ぎ寄せてきた船から降りてきたのは、五百を超える体格の良いマツラ国の兵士達、そして、いまやマツラ国の長老となったマサだった。

それを、ワヒ国の長のタルサ、ヒタ国の隊長が笑顔で迎える。

ワヒ国の長のタルサが「マツラ国の来援に感謝する。おかげでヤマタイを追い返す事ができた。」と、礼を述べた。

マツラ国の女王の弟で、いまやワヒ国の長の補佐役であるヒカも、「ありがとう友よ!」と手を取らんばかりに、マサとマツラ国の兵士達に感謝した。


マサが兵達を代表して「女王が、ワヒ国を救えなければ、マツラ国の将来も危うい。マツラ国の大船すべてを集め、すぐにワヒ国に向かえ!と言われたので、我々は従った迄。女王の命に背くものはマツラ国にはいない。」と答える。


「私も、ワヒ国の長の命に背くことは決してない!」とヒカが胸を張って言う。


「特に、妻のニキのいう事には頭が上がらないらしい」とワヒ国の長のタルサが冗談を言う。

「そのとおり!」とヒカが答えて、皆が大笑いする。


そこへ当のニキとマサの娘チミ、ヤカの娘リミが三人そろってやって来る。

「何の話ですか?」とニキが笑顔で尋ねる。

「いや、マツラ国の方々にお礼を申していただけです」とヒカが慌ててうろたえながら、話を引き取ろうとする。これを見て皆が一斉に笑い出す。


マサの友のヤカとハラとその妻たちもやってくる。歩けないヤカは、ハラの二人の息子、カラとタラに肩を貸されてやってきた。

「マツラ国の皆さんありがとう!マサ、お前は大した男だ。俺たちはお前の友というだけで自慢ができる!」とハラが言う。

するとハラの妻のヒキが「何言ってんだい!いつもへっぴり腰で!昔私がヤマタイに連れて行かれた時助けに来なかったくせに!」と言う。

「ずいぶん昔のことをよく覚えているものだな」と皆が感心する。

初めてこの話を聞くマツラ国の兵士達には、マサがどんないきさつかを説明したので、マツラ国の兵士達もニヤニヤしはじめる。

「いや、俺もあの時、お前を助けようとしてたんだ。なあヤカ!」

ヤカは笑って、「そうだな、あの時、ハラと一緒に行くべきだったな」と言う。

ハラは顔を赤くして、「そうだよ!そうなんだよ!」と力を込めて言った。

そこにいる女達は皆、呆れたようにそれを見、男達は皆ハラに同情した。

「二十年も前の事らしいぜ、どこの国でも女は怖いな・・・」


ワヒ国、ヒタ国、マツラ国の兵達のために、ありったけの食べ物と酒が並べられ、宴がはじまった。ワヒ国の女達が声をそろえて歌い出す。


  大漁だよ、大漁だよ、海の女神様ありがとう、たくさんの魚をありがとう


  大漁だよ、大漁だよ、達者な男達ありがとう、今日も無事でありがとう


その日、ワヒ国とマツラ国、ヒタ国の人々の話は尽きず、夜遅くまで宴は続いた。



その数日後、マツラ国の兵達は、「ヤマタイが再びワヒ国に侵攻してくる事があれば、いつでも大船で駆けつける」という約束をして、出航していった。マサも親しい人たちに別れを告げて去って行った。

すっかり馴染んでしまったヒタ国の兵も去り難く、ワヒ国の人々に引き留められていたが、いつまでも居続ける事はできず、十日ぽどたった後で、

「今度はもっと人数を増やして駆けつける」と約束して、ヒタ国へ帰って行った。


そしてワヒ国にいつもの、男達は漁に励み、女達は畑仕事に励み、子供たちが元気に走り回る、穏やかな日常が戻った。

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