第17話 ワヒ国での戦い

一行六人は、女王と多くの人々に見送られて、にぎやかにマツラ国を出発した。

入り江を後にして、ワヒ国の入り江の北へ向かう。三日目に、泥の浜が続く入り江の海を迂回して、ワヒ国の長のいる村へ到着した。


ワヒ国の長タルサは、ヒカの話を聞き、マサがマツラ国の女王の婿になった事を大いに喜んだ。そしてすぐに、自分の娘をヒカの嫁にしたいと考えた。ワヒ国の長は、いつも一緒の三人の娘、自分の娘のニキ、マサの娘チミ、ヤカの娘リミを呼び出した。呼ばれた三人の娘は相談し、対面したとき、ヒカに選ばれた者がヒカの妻になる事を決めた。


その夕刻、宴が開かれ、ワヒ国の長タルサはこれから出てくる三人の女のうち、一人を選んでもらいたいと言った。三人の娘が進み出、ヒカの立派な様子を見て、三人とも笑顔を見せた。ヒカは暫くの間迷ったが、ヒカを見てうなずいた真ん中の娘を選んだ。ヒカがその娘の手を取ると、ワヒ国の長タルサは喜び、「それが私の娘だ。今日が祝言となる」と言った。


こうしてマツラ国の女王の弟のヒカは、ワヒ国の長の娘婿としてワヒ国に残り、補佐役になる事になった。替りに、今までの補佐役だったマサがマツラ国の女王のもとに行く事もみんなに了承された。


ワヒ国の長の補佐役となったヒカは、ワヒ国にいろいろな提言をした。ワヒ国の守りについて、特に城の周りの堀に感心し、これではヤマタイの兵も破ることはできないだろうと言った。しかし、守りは固くともいつまでも籠城するわけにはいかない。遠くで囲む敵を撃つには大きな弓をつくる必要があるという。その弓は柵に固定し、矢ではなく、石を遠くへ撃ち出すという。


ワヒ国の長は、弓矢づくりの村に使いを送り、大弓の制作を依頼した。弓矢づくりの村の長は亡くなっており、その弟子のマトがその技術を受け継いでいた。ワヒ国に出向いて来たマトは、マツラ国の大弓の話をヒカから聞き取り、マキの木と竹を何重にも重ねて蔓で巻くという方法で、大弓を見事に作り上げた。それを学んだワヒ国の人々が同じようにして大弓を幾つも仕上げていく。ワヒ国中から投石に手ごろな拳より大きい石が集められ、城の中に積み上げられていく。

こうして、ワヒ国にも、マツラ国と同様に柵に大きな弓が並び、石が積みあがる光景が出現する事になった。ワヒ国の備えは充実したものとなって行った。




こうして数年が何事もなく過ぎた後、ヤマタイの国からの使者が、ワヒ国を訪れた。

「わの国は、ヤマタイの王の命に逆らい、兵をあげる事、不届きである。またヒタ国の人々を連れ去り使役する事は悪逆極まりない。すぐにヤマタイの王に謝罪し、その命に伏せ。さもなくば打ち取る迄」という口上だった。


ワヒ国の人々は、ヤマタイの奴隷になるよりも戦うべきだと、一致した。


ワヒ国はヒタ国の長、マツラ国の女王、クマ族の長に使いを送り、ヤマタイの兵が攻めて来る事を伝え、助力を求めた。

ヒタ国とマツラ国からは、必ず援軍を送るという約束がなされた。

しかしクマ族からの返答は、なかなか返ってこなかった。



そして半月後、三千を超えるヤマタイの兵がワヒ国に向けて進撃を開始してきた。北の砦からは、黒い蟻が地面を埋め尽くすように、ヤマタイの軍勢が近づいてくるのが見えた。砦から狼煙が上がり、ワヒ国の人々や近隣の国にヤマタイの来襲を伝えた。


ワヒ国の五百の兵は村の東の城に立てこもり、残りの兵は女子供と共に城の背後に続く東の山々へと避難した。


まずヤマタイの軍勢は北の峠に押し寄せ、ワヒ国の三十人の兵が立て籠もる砦を囲んだ。ヤマタイの火矢が砦の中に無数に飛び込んでくる。つづいてヤマタイの兵が梯子を架けて登ってくる。まず上から石で、そして横から矢で、最後に下から二股の棒を突き出されて梯子が倒され、ヤマタイの兵が叫び声をあげて落ちていく。その間、ヤマタイの兵達の放つ矢は雨のように砦に降り注いだ。ワヒ国の兵も倒れる者が続出し、砦からの反撃も少なくなっていった。それを見たヤマタイの兵達は砦を攻撃するのを中止し、峠を通過し、ワヒ国の集落へと下って行く。


峠から、無人状態のワヒ国の集落に入った三千のヤマタイの兵達は、集落に火を放つことはなく、家々を陣営として利用し、煮炊きを始めた。ヒタ国の兵が大弓を構えて待ち受ける城に近づく気配はなかった。


ヤマタイの来襲から三日後、ヒタ国から三百の兵が来援し、ワヒ国の兵と合流した。ワヒ国の長はこれを歓迎し、ワヒ国の人々も涙を流して喜んだ。ワヒ国とヒタ国の兵は併せて千近い数となり、大いに気勢が上がった。そして、城を出てヤマタイの兵に近づき、大弓の待ち構える城へ誘い出す作戦を開始した。


ワヒ国とヒタ国の兵は、三百人ずつの三段の密集隊形を取り、「オウ!オウ!オウ!」と声を上げ、村に陣取るヤマタイの兵に向かっていく。


これに対し、集落から出てきたヤマタイの兵は、三千という圧倒的な数を誇るように、村全体を覆う横長の隊形で盾を並べて待ち構える。


まず、一段目のワヒ国の三百の兵がヤマタイの陣に遠矢を放ったのち、盾と槍を掲げて突進し、攻撃を仕掛ける。ヤマタイの兵達は、近づく三百の兵に遠矢を射かけてくる。誘い出すように一段目の兵が逃げ出す様子を見せると、ヤマタイの百を超える騎馬兵が襲い掛かろうとする。


そこに、二段目のヒタ国から来援した三百の兵が盾をかざして立ちはだかった。ヒタ国の兵達は長い槍を並べて、ヤマタイの騎兵の接近を防ぎながら前面に出る。ヤマタイの兵達は遠矢を射かける。二段目のヒタ国の兵が後退し、ヤマタイの兵の追撃を誘うが、ヤマタイの兵は追いかけようとはしない。


続いて、三段目ワヒ国のの兵が盾をかざして矢を防ぎながら前面に出る。ヤマタイの兵達は、またもや、遠矢を射かけるだけで動こうとはしない。


こうしてこの日のワヒ国とヒタ国の兵の三段に分けて交互に戦い、ヤマタイの兵達を城に誘う「ハンミョウ作戦」は、ヤマタイの兵達の遠矢によって百人以上が倒され、手負いとなるだけの結果になった。大弓の待ち構える城へ誘い出す作戦は完全に失敗した。

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