第11話 新しいわの国

ヒタ国の兵達は、勝利に歓声を上げ、ヤマタイ兵の追跡から戻ったわ人の男達と共に、ヒタ国の人々が待つ集落に戻った。ヒタ国の人々は喜びに沸いた。三百人のわ人の男達は、一緒にヤマタイと戦った仲間としてヒタ国の人々に大歓迎され、昔からの友人の様な扱いとなった。ヒタ国の人々は、太鼓をたたき、まるで祭のように、四本の大木で組まれたやぐらを中心に踊りはじめた。


ヒタ国の男達とわ人の男達は、ひとしきり、戦勝の喜びを分かち合った。

「ヤマタイの奴らを、追い返してやったぞ」

「二度とヒタ国に近づこうとは思わないだろうな」

わ人の男達は、いまからヤマタイに攻め込んで、人質になっているわの村の人々を取り戻したいと、ヒタ国の長に申し出た。


ヒタ国の長は

「わの国の人々の気持ちはわかる。だがすぐにヤマタイの国と戦うよりも、ヤマタイの国の南、ヒタ国の西の中間の土地に、新しいわの国を作り、ヤマタイから逃れて来るわの村の人々を助け、守るというのはどうだろうか?むろん、ヒタ国の兵も同行して力を貸す」

わ人の男達は、ヒタ国の長の言葉に感謝し、その提案を喜んで受け入れる事にした。


数日後、今度は三百人のわの国の男達と、応援のヒタ国の兵士五百人が、人々に見送られて、新しいわの国をつくる場所に向けて出発した。わの国の男達は、ヤマタイの兵士達が残した弓矢と盾を持って兵士らしくなっている。マサ達もその一行に加わっている。


途中、弓矢づくりの村へ立ち寄った一行は、長と再開し、これまでの戦いの様子と、わの国を作るために、ヤマタイの国の南、ヒタ国の西の中間の土地に向かう事を伝えた。


弓矢づくりの村の長は、ひとしきり喜んで聞いていたが、注意すべきことがあると言い出した。


「ヤマタイの国は、今回は負けたが、悪辣な知恵があり、まだ二千の兵を持っている。数の多い敵に対して、目立つ行軍をするのは上策ではない。まず、ヤマタイの国に気付かれないように、わ人の男達がその土地に向かい、山道や峠をおさえて砦を作り、ヤマタイへの備えを固め、それから、ヤマタイの国に囚われているわ人たちに、新しいわの国の事を伝える。そして、逃れてきた人を助け、守る。

ヒタ国は、ヤマタイの国がこれからどう動くか見ているべきだ。ヤマタイの国は海から攻めて来る事が多い。ヒタ国の海岸の守りも重要だ。海岸に石塁をたくさん作って、海からくるヤマタイの兵に備えるべきだ。

ヤマタイが、わの国に攻めてくる事があれば、その時に駆けつけて、時機を見て戦うべきだ。」

わ人の男達も、ヒタ国の人達も、その言葉に納得するほかは、なかった。


弓矢づくりの村の長の言うとおりに、ヒタ国の五百人の兵士達は、何かあればわ人達を助ける事を約束し、ヒタ国へと帰還していく。ヒタ国の兵士達を見送ったわの国の兵士達は同行した弓矢づくりの村の長と共に、できる限りヤマタイに気づかれぬように、目的の土地に向かった。


翌日わの国の兵士達は新しいわの国の土地に到着した。そこは西に泥のだらけの入り江の海が広がる土地で、住んでいる人はなく、ただ鹿だけがやたらと多い土地だった。わの国の兵士達はヤマタイの兵から奪った大きな弓で、獲物を楽々と仕留める事ができた。


わの国の兵士達は、ヤマタイの国との戦いに備えるために、弓矢づくりの村の長と相談し、まず、ヤマタイの国との境の北の峠に、砦をつくる。物見櫓と狼煙台を兼ねて、五十人程が立て籠もり、ヤマタイの国の兵が攻めて来るのに備える。

もう一つは村の東にある三方が急な崖に囲まれた山を、五百人程の兵が立て籠もる城とする。どちらも石塁で囲み、よじ登ってくる敵に槍を投げたり石を落とす仕掛けをする。梯子(はしご)を架けてくる場合に備え、先が二股になった長い棒を下から突き出す工夫もする。


ひと月をかけ、出来る限りの対策をしたのち、わの国の兵士達は、ヤマタイの国にいるわ人達に「新しいわの国」の知らせを送った。


すぐにヤマタイから逃げ出したわ人達が集まりはじめ、ひと月と経たないうちに、数百人が新しいわの国の土地に集まった。わの国の人達は、家族・親類・縁者との再会に喜び、涙を流した。こうしてヤマタイの国の南に、新しいわの国がつくられ、ヒタ国との同盟の下、ヤマタイからの侵攻に備える事になった。


新しい生活を始める事になったわの国の人々は、その地がもとのわの国よりも南向きの土地が多く、温暖であることに気付き喜んだ。山の幸も海の幸も、もとのわの国と同じか、より多かった。


マサは新しいわの国の長に推挙された。何より最初にヤマタイの支配に反乱を起こし、弓矢づくりの長と共にヒタ国に向かい、ヒタ国との協力を成功させたことが、わの国の人々の支持を集めた。共に行動したヤカとハラも、マサが新しいわの国の長になった事を喜んだ。ヤカとハラの妻たちイリとヒキも元気で、マサの亡くなった妻イミの子も含めた四人の子供たちを兄弟のように育てた。四人の子供たちは、村の子供たちと元気に走り回り、大人たちと混じって働き始める年齢となっていた。


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