第14話 岩と丸太の砦

ヤマタイの兵達は、わ国兵のこの妙な作戦に苦戦しながらも、馬を後方に回し、徒歩の兵が遠矢を放ち、盾と槍で突進するという戦法で、なおも西の山道に向かってわの国の兵達を追撃して行く。


ヤマタイの兵達は、五年前にヒタ国を攻めた時、岩や丸太が落ちてきて痛い目にあった崖に差し掛かり、山に物見を放った。

しばらくして物見は「岩や丸太の仕掛けはあるが敵兵の姿はない」

と本隊に報告した。しかしその時、崖の上では物陰に潜んでいたヒタ国やわ国の兵が一斉にヤマタイの兵を襲い、声も出させずに息の根を止めようとしていた。


崖のある山道付近になると、三段に構えて引いていくわ国兵の逃げ足が速くなった。ヤマタイの五百の兵達も騎馬兵を前面に出し、追撃の速度を速めていく。

暫くして、崖から何者かの叫びが聞こえた。ヤマタイの兵達は何事かとあたりを見回す。


その時だった。五年前と同じく、両側の崖から岩と丸太が落ちてきて、ヤマタイの兵の隊列の真ん中に飛び込んだ。岩と丸太が大音量を上げて互いにぶつかり跳ね上がり、ヤマタイの馬十数頭と数十人の兵が下敷きとなる。立ち往生したヤマタイの兵達をめがけて、両側の崖から、わの国やヒタ国の兵達の放つ矢が降り注いできた。


ヤマタイの兵達は、またもや罠にかかり、前方と左右の見えない敵から矢で狙われ、後退していく。


その時、後方の、物見が「岩や丸太の仕掛けはあるが敵兵の姿はない」と報告

したはずの崖から、またもや、岩と丸太が落ちてきて、道を塞いだ。

四方から囲まれ、進退窮まり、わの国とヒタ国の兵の矢の標的となったヤマタイの兵達は次々と倒れていく。残り百人となった時点で、武器を捨てて降参した。


わ国とヒタ国の兵士達は、五年前と同様に再び、ヤマタイの軍に岩と丸太の仕掛けで勝利した。


この後、わ国兵は山道に積み上げられた岩と丸太を砦とし、ヒタ国の兵は周りの山の中で戦うことになった。捕虜にした百人のヤマタイの兵は、二段構えとなった岩と丸太の砦の一段目と二段目の間に、縄でくくって人質とした。捕虜たちは反抗する事もなく、食事をもらうと頭を下げた。




ヤマタイは、数日後使者を送ってきた。捕虜となった百人のヤマタイ兵と、ヤマタイの捕虜となっているヒタ国の兵と住民三百人を、交換する事を提案してきた。ヒタ国とわ国の兵士達は、この提案を受け入れることにした。


次の日、山道をヒタ国の三百人の人々が、ヤマタイ兵に囲まれ縄でつながれて到着した。

まずヒタ国の三百人の人々が縄を解かれ、ヒタ国とわ国の兵士達に迎えられ、岩と丸太の砦に南側から登っていく。次にヤマタイの兵百人が縄を解かれ、岩と丸太を乗り越え、仲間のヤマタイの兵の所に戻っていく。


助けられたヒタ国の人々は、わ国とヒタ国の兵士達に感謝しつつ、避難しているヒタ国の人々が待つ山の中に消えていった。ヒタ国の人々が、ヤマタイの国に捕らえられて奴隷となるという最悪の事態は防ぐことができた。


その後、ヤマタイから新しい提案があった。「無益な争いはやめよう。ヤマタイはヒタ国に留まる。ヒタ国の人々が新しいわの国に移動するならば、それを妨げないし、それを認める。その場合、ヤマタイ国は今後、新しいわの国に兵を向ける事はない。」というものだった。ヒタ国の人々はその提案を拒否した。


その後、ヤマタイは一向に攻めてくる様子はなく、ヒタ国の海沿いの浜辺を含む東側の平地に定着しはじめた。そして、東側の土地に帰ることが出来なくなったヒタ国の人々は、この西の山道を含む西側の山々の土地で、暮らす事を始めた。

この結果、ヤマタイがヒタ国の東半分を支配し、ヒタ国の人々が西半分に居住するという状況が長年にわたり続く事になる。この状況は、ヒタ国の人々にいろいろな複雑な状況をもたらしていく。



山の中で暮らす事になったヒタ国の人々は、海のない生活に困窮しはじめた。

ヒタ国の人々は元々、わ人と同じく、主に海で魚や貝を捕り、それを干物にして保存する事で食を支えていた。しかし、それが出来なくなったいま、鹿やイノシシなどを捕まえるしかない。それらは一年中潤沢にあるものではない。

食べ物に困窮した一部の人々はヤマタイの支配する東側の地に戻って、慣れた海で漁をしたいと言いはじめた。苦しい状況を知っている他の人々も、それをいつまでも留める事はできなかった。


ヤマタイは、東側の地に戻ってきたヒタ国の人々を奴隷のような扱いをしたが、人々にとっては致し方のない選択だった。


山の中に残ったヒタ国の人々の中には、ヤマタイに降るより、新しいわの国に移住したいという者たちもいた。新しいわの国はその人々を歓迎し、共に暮らしていく事となった。

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