その日、太陽のもとで何が在ったか?(4)お土産位はご用意させて頂きますので

 大学生アサシンズは簡単に寝返った。



 尤も其れを寝返り、と彼等は呼んで欲しくは無いことであろう。特に弘仁の判断が素早かった。弘仁は論理性や客観性に関しては多少足りない所があるが、天性の嗅覚、とでもいったものが非常に優れている。ここで変に意地を張って綾音の素性も何もかも恐れての行動であった。尤も、かと言って博打に出るものがあったかよと後に篤からは詰られいつもの如くちょっとした喧嘩となる。


 事情を知った飯野はハア、と腕を組んで幾何いくばくか長い、瞬きをした。サングラスに隠されていて青年達には判らないが既に五十も近い飯野が目をギュウッと瞑ると皺が益々寄り複雑な高波の如くになる、……尤も其れは天王寺薫子も同じだ。あの天王寺薫子とて、心は兎も角、身体は何時(いつ)まで経っても少女という訳にもいかぬ。皺には、月日が如実に表れる。

 サングラスの裏で飯野はギュッ、と両目の瞼を押し上げた。


「……館花様は存じ上げておりますよ。ええ、当主のお茶の生徒さんでしたでしょう。上品な御方だと思っておりましたが……」


 独り言、と解るので、青年二人は敢えて返事をしない。


「……いや。そういったことはどうでも宜しい。肝心なのはあなた方の依頼でありますよ、ふむ……コロを殺せ、ですか」



 二人は神妙に頷いた。



 別に完全に別個の立場であるのだし利害が一致するかと言えば別にそうでもないのだが、応接室には一種奇妙な連帯感とでもいうべき親密さが存在していた。不思議なことだ。闇に触れようとする者同士は何故か自然と接触の感触が徐々に徐々に柔軟剤の如く柔らかくなっていく。いっそ有り勝ちであることだ。



「コロはね、いますよ、……けどあの子はあなた方が思って居るような子ではない」



「犬が?」


 と、篤。飯野は大きく頷き僅かに、唸った。


「まあ当然殺すというのは無理です」

「愛犬ですもんね」


 と、此方は茶化すように篤。だが飯野は重たく首を横に二度、三度、振った。


「……そういった些末な問題では御座いません。……しかしあの子にまで影響が及びかけたのはひとえに未来様の御傍に居たわたくしの責任でもある。……そうですね。それではコロに会わせて差し上げましょうか」

「……会わせちまって良いんですかいオバさん、俺等は可愛い可愛い愛犬のその子にちょっかい出しに来たんですぜ」

「出せるものなら、出せれば宜しい。……但しその際ワリを喰うのは其方そちらですよ」


 飯野は腕組みを、解いた。


「……まああなた方がコロに会った感想を館花様のお孫様に伝えて下されば其れで宜しい。……お土産位はご用意させて頂きますのでね」



 交渉、成立と――当然二人には解ったから、又改めて、顔を見合わせた。

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