分析します、殺されちゃう
「……なにが望みなのよ……」
あたしは、震える声で言った、なんであたし自分の声がこんな震えるんだかなんだかよくわかんない、けどほんとわかりやすく震えてる、ああ、……こんなんじゃそこらへんのどこにでもいる女みたいだ、あたし。いやだな……いやなのにな、そんなの。
あたしは高二の段階でかるがると数ⅢCだって解けるのにな。あーあ。……こんな頭のオカシイ女とちがって、さ。
「なにがほしいの? あたし、なにをすればいいの? 教えてよ、ねえ。教えてよ。あんたなんかあたしの仲間が来れば一発なんだから……!」
「一発、とは、なんのお話なのですか?」
「……イチコロってこと!」
「んー。いち、ころ、ころ、コロ」
ふふっ、と笑った、……ああほんとオカシイ!
「冗談はさておきですね?」
自覚は、あったのか、――ああなんかもうそんなことまでも分析するのだってできない、できない、――あたしのデータベースが追っついてないんだよさっきから、さあ、ね!
ちゃんと、ちゃんと、……あたしのことがっちり抑えつけてさ、首すじにはいまもこうやって鋭すぎる金属が押し当てられてるわけなんだから、そんなところで冷静に、冷静にだなんて、クールに、なれるワケ……?
この女はそうなのかもしれないけどっ、
「用事があったのはそちらさまなのですよね? だってわざわざほかのおひとに頼むくらいのことなのです。わたし、ご用件をおうかがいしに来たんですよ、あのねあのねの、あのですね、犬が人間さまになにかを望めると思いますか?」
ふふっ、……と。
そしてやけにしんみりとした口調になる。
「……ときどきねえ、あるんですよねえ。わたしは人間はごっこなのに、本気で捉えられても困るのに、そういうふうに見てくるひとって、ときどき、いらっしゃるんです、……なにかを誤解されてるんでしょうけど。中学のときも……人間ごっこをしているという意味で中学のときも、いました、ありました、未来さまのお友だちが大変なこと未来さまに言おうとしちゃって、うん、驚いたことが、あるのです、でもわたしあのかたのおかげで学べることができました、こういうときにどうしたらいいのかって、対処法……」
続きがすぐくるかと思ったら、不自然な、間。
「……なにを、学んだのよ」
「誤解を受けたときには解かなくちゃいけないって」
明るい、声。
「だから、わたし、誤解を解きに来たのですよ、ねえ? ――館花綾音さん」
そんな耳ざわりのいいことばっか言って。
「……お友だちは選んだほうがよいと思います」
無邪気に、まるで親友、みたいに。
「――あなたのようなすてきな女性が売春しているだなんて知られたくないですね?」
「ばい、しゅん?」
覚えがない。……もちろん。
「既成事実は簡単につくれますよ? ……大学生の男の子たちと遊ぶってそういうことですもの」
声が一瞬、がくんと、しっとりおとなっぽくなる。
「売春、してることに、なりたく、ないですものね? ……だってすてきなおうちとすてきな志望校がありますのですものね? ……わかりますか?」
クッ、と、――その手に力がこもった。ああ、
分析します、
――殺されちゃう。
「未来さまの環境を塵ひとつでも動かしたら殺しますよって言ってんです」
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