大学生アサシンズ
「言うほど、そんなに、ひどい元カレには思えないけどなあ」
……あー、やだやだ。そんなんだから理系はなんて、理系のファッション的イメージが、もっと悪くなっちゃうよ。あー。あたしはただ純粋にプログラミングがやりたくって理系志望なだけなのになー。文系はおしゃれって感じで終われるけど、理系はこうだよ。はー。理系男子、なんてこんなもんよね。
あたしはと言うと無難にウーロン茶を飲んでいる。篤はこのくらいならいくらでも好きなだけ頼みなよとか言うけど、けっこうだ、ポテトもバーガーもいらないよ。だってあたしダイエット中。BMIが標準下回ってもずーっといつもつねに、ダイエット中。
返事をしないで紙カップのフタを取ってストローをぐるぐると回す遊びをただしているかのようなあたしに篤は慌てたのか、ああっでもね、とコミュニケーションの潤滑油以上にはなんら意味をもたないロストタイムな感嘆詞をもらす、……だから、あたしにはそーゆーのいらないっつーに。あたしはほらそこにいるスカート短い頭の弱い女子高生連中とは、ちがうんだからさ。篤はほんといつまで経ってもあたしを女の子扱いだから困るのだ。ほかの男の子たちはもうみんな気軽に気さくにおおっ綾音とかいって慣れっこなのにさ。
「ああっ、でもね、うん。そうだね。綾音ちゃんがひどいと言うならそうなのだろう。そういうのは僕が判断してはいけないね」
「観測不可能なことは言い切るな、ってこと? 科学者倫理みたいだね、それ。それっぽくないやつはそれっぽく言っちゃ駄目、ってさ」
じつは、うろ覚えの知識なのだった。そうそう、と篤が大きくうなずいたのですこしほっとした。篤はこんなふうにぬぼっとして見えるけどもう学部の三年生。ゼミもやってる。目立つタイプじゃないけど堅実でけっこう期待されてるとか、ほんとかな。
篤が研究者として白衣とか着ちゃって大学の講義をしているところを想像する。……うーん。似合わない、壊滅的に。
「……でもあたしはひどいと思うのよ」
「それは綾音ちゃんからしたらきっとそうなんだね。それで? きょうの僕たちへの話って、元カレさんが関連していることなの?」
まあそれでもさすがは理系。まどろっこしい雰囲気よりも本題を優先している。
「……そう。頼みたいことがあって」
タン、タン、タン、と店の階段をのぼってくる音がする。
真夏だというのに黒い長袖のニットなんか着た男は、ちゃらっ、と片手を上げた。
「ちーっす」
篤の友人。
篤が言うには、究極の文系人間。
彼は文系らしく軽薄に笑った。
「そんで? 俺の力が、必要なわけ?」
篤もにたありとゆっくりゆっくり伸びるように笑った、――大学の連中といるときにはむしろここまで気色悪い顔はしないのにね。篤。
弘仁は笑顔の角度を変えた。
「大学生アサシンズの俺さまの力が、必要?」
「おい。僕もだ」
「わーってるって、相棒」
大学生アサシンズ。学生しながら殺し屋やってますなんて。馬鹿みたいな冗談だ。
けど、馬鹿であっても冗談では、ない。
……復讐とかも請け負ってるんだって。
そういう友人がいるってどんくさい篤からポロリと漏れてしまったらねえ――頼むしか、ないでしょ、そんなの。
天王寺未来のことを。
金をね、ちらつかせれば、人間すぐに動くから。それこそどんくさい篤もそうだよ。……金の問題なんかなにもないよ。おばあちゃんが、遺してくれたんだもん。
おばあちゃんだってあたしが天王寺家に嫁入りすればいいと思っていたはず。だから。……だから。
天王寺未来への復讐代をちょっともらえばおばあちゃんだってきっといまごろあの世で喜んでくれているはず、なんだ。……ね、そうでしょ?
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