第19話 あくび

「おやおや。どうやら本当に死んでいるようだね。あのドアノッカーの言ったとおりだ」

「残念です」

「わざわざ会いに来たのにね。でも、死を命じた猫夫人が死んだなら、墓掘り人はもう死ななくていいんじゃないかな」

「どうでしょう。猫夫人にこころを捧げていると、彼はそう言っていましたから。なおのこと死ぬ意志を固めてしまうのでは」

「ありそうな話だね」

 影少年と詩人は、猫夫人の死体を見下ろしながら、会話を続けた。

「しかし、疑問なのですが」

「言ってみたら?」

「なぜ死んだのでしょう」

「そうだねえ……。まあ、胸にナイフが刺さっているところを見ると、これが致命傷だったんじゃない?」

 詩人の言うとおり、アルファベットのKのような姿勢で倒れている影には、深々と刃物が突き立てられていて、豪華なシャンデリアの光に銀をきらめかせていた。

「他殺ということですか?」

「自分で刺したんじゃないなら、他殺だね」

「この館には、他に人はいるのでしょうか」

「さて、ノックにはだれも反応しなかったようだけど」

 ちょうどそのとき、ドアの音が聞こえた。外へと通じる扉ではなく、ホールから別の部屋へのドアが、もったいぶったような軋む音をたてて開いた。

 謹厳な物腰の、正装した影が、あくびをしながら入ってきた。目上の主人をうかがうような、実直なあくびだった。

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