第22話 インドア執事

「とにかく、猫夫人を殺したのはおれたちじゃないよ」

「それを証明できますか?」

「証明っていったって……。この館に入ったら、いきなり死体が転がってたんだよ」

「入っていきなり、刺したのでは?」

「そんなメチャクチャな」

 なんともいいかげんな執事の決めつけに、詩人は呆れた。

「いずれにせよ目撃者がおりませんので。あなた方が入ってきたところも、あなた方が刺していないところも」

「だって、ノックをしたけど誰も来なかったじゃないか」

「あなたはノックに反応がないと、侵入するのですか? 盗人の論理ですね」

「おれは詩人だよ」

「では盗作もお得意なのでしょう」

「猫のドアノッカーさんが、死体があると教えてくれました」

 影少年が口を挟んだ。

「そうだ、そうだ。あのドアノッカーが、玄関ホールで猫夫人が死んでいるって、そう言ったんだよ。あのドアノッカーなら、おれたちが来る前に死体があったって、知っているはずだよ」

「なるほど。ドアノッカーの分際で、館内の様子を御存知なのですか。怪しい証言ではありますが、ここに連れてきてくれたら、考慮はいたしましょう」

「連れてくるったって、すぐそこじゃないか。扉の外にくっついてるから、自分で訊いてきてくれよ」

「私はドアノッカーとは面識がありません」

「あんたのところのドアノッカーだろ?」

「私はこの館の外に出たことはありませんから。玄関の扉をくぐったこともありません」

「出たことがないって、一歩も?」

「生まれも育ちもこの館です」

 筋金入りのインドア執事は、またあくびをした。眠そうだった。

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