第23話 睡魔

「玄関の扉をくぐるくらいは、いいんじゃないかな? とにかくドアノッカーの証言を聞いてほしいね」

「ダメです。私は絶対に外へは出ません。どうしてもというなら、ここに連れてきてください」

「ドアノッカーを?」

「ドアノッカーを」

「まあ、とりあえずは、おれたちだけで話を聞いてこよう」

 そういって、詩人は扉へと向かった。

「あれ? 開かなくなってる……」

 扉は押しても引いても、びくともしなかった。入ってくるときは簡単に開いたのに。

「この館はオートロックです。いちど足を踏み入れた者は、猫夫人の許可をもらわないと、外には出られません」

「厄介だね、どうにも。罠みたいな館だな」

「館への侮辱は許しません」

「許さなかったらどうなるの?」

「謹んで嫌がらせを申し上げます」

「陰険だ……」

 影少年が、扉を内側からノックした。

「ドアノッカーさん、ドアノッカーさん。聞こえますか?」

 影少年は扉に耳を押し当てた。詩人もそれにならう。向こう側から、濁音だらけの、こもるような異音が聞こえてきた。ずずず、んごご、ぐるる、といったような音だ。

「これって、いびきかな?」

「ドアノッカーさんは眠ってしまったようですね」

 執事はまたあくびをした。ドアノッカーといい、執事といい、この館の主人の死よりも、睡魔に気を取られているようだった。

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