第25話 影少年に一礼

「なるほど。それは一理ありますね。私が殺した可能性もある」

 執事が感心したようにうなずいた。

「執事さんが殺した可能性しかないよ。おれたちが犯人ではないと、おれたち自身は知っているからね」

「それは詭弁ですね。なんの証明にもなっていない。それに、あなたが殺していなくても、こちらの少年はどうですか?」

「ナナシくんは、ずっとおれと一緒だったよ。ちなみにこの子は、たとえ自分が殺されそうになっても、他人を殺すことはないと思うよ。おれの見解ではね」

「三文詩人の見解ですか。参考にならないことおびただしい。とはいえ、少年の名前は、ナナシですか。猫夫人の館へようこそ、ナナシ様。歓迎いたしますよ」

 執事は影少年に一礼した。

「なんでそんなに態度が変わるんだい?」

 エリアンは訝しんだ。

「この少年は、あなたよりよほど礼儀正しいようですから」

「殺人の容疑をかけておいて?」

「慇懃な殺人鬼は、無礼な詩人よりも敬意に値しますよ」

「そうかい。ちなみにおれはエリアンという名前だよ」

「エリアン様、依然としてあなたも容疑者であることをお忘れなく」

 話はなかなか前に進まなかった。

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