影少年の冒険

koumoto

第1話 影少年

 影少年は、影の世界をてくてく歩く。真っ黒な少年、白黒の世界。輪郭だけが鮮やかだった。

 影少年がいつから影なのか、彼自身もはっきりとは覚えていない。気がついたら影だった。以前はそうではなかったはずだが、影になる前の記憶は遠かった。前世みたいに淡かった。

 なので、そのことはあまり考えない。

 影少年がよく考えるのは、もっぱら影少女のことである。自分と同じように真っ黒な彼女が、とても好きだった。彼女も、自分を嫌ってはいないようだった。とはいえ、好きであったとも限らない。ずっと一緒にいられると信じていたのに、影少女はとつぜん姿を消してしまったのだ。

 いなくなる前に、彼女はこう言っていた。

「死の意味を探しに行かなければならない」

 影少女のその声が、いまも頭から離れない。夢みるような、空気の震え。羽根を揺らすようなささやき。

 だから影少年は、彼女とまた再会するために、彼女の声に従うように、自分も死の意味を探しに行くのだ。

 こうして、影少年の冒険は始まった。

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