第13話 赤信号の中の彼
横断歩道を前にして、エリアンは立ち止まった。車が通る気配はない。
「なぜ止まるの?」
「信号が赤だからだよ」
なるほど、信号機は赤い光を放っている。生きとし生ける者は黒く塗りつぶされ、死せる空も黒く塗りつぶされたが、生命の宿らない物体は、いまだ黒以外の色彩をとどめている。歩行者用信号機には、立ち止まった人間を表すシルエットが、赤を後光にして浮き上がっている。止まれと警告するピクトグラムの彼も、のっぺらぼうの影みたいだ。
「彼もおれと同じく、帽子をかぶっているね」
「彼って?」
「赤信号の中の彼だよ。血だまりに浸かっているようじゃないか。信号機によっては、彼自身が血まみれだ。きっと事故死を見すぎたんだろう。不憫な生涯だ、そう思わないかい?」
車も通らず、歩行者も見当たらない、がらんとした大通りで、詩人と影少年は信号を待つ。
「交通法規なんか重要ではないんだ。おれが赤信号で止まるのは、彼にシンパシーを感じるからだよ。赤色に佇む立ちん坊の彼にね」
信号が青に変わると、赤信号の彼は黒に染まった。束の間、彼は影になる。影の世界の住人のように。
影少年と詩人は、横断歩道をてくてく渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます