第4話 エリアンとナナシくん

「死の意味は、どこに行けば見つかるでしょうか?」

「おれに訊かれてもね。そうだな、とりあえず近場なら、墓場なんかどうだろう。すぐそこにハムレット霊園がある」

「墓地ですか。たしかに死が転がってはいますね」

「夢の跡みたいなものさ。ついでに、おれの墓もある」

「エリアンさんの?」

「さんづけはやめてくれないかな。半端な脚韻みたいで耳ざわりだ。音が小規模なハレーションを起こしてる。エリアンでけっこうだよ、ナナシくん。敬称略といこうじゃないか」

「それなら、ぼくもナナシでいいですよ」

「いやいや、ナナシくんはナナシくんさ。その方が響きがいい。舌先に快い。ナナシくんなら友達になれそうだけど、ただのナナシなら裏切りたくなる。おれに敬称はいらないけど、きみに敬称は似合っているよ。礼儀正しい影にお似合いの、素敵な冠だ。きみの距離感にはそれがふさわしい」

「はあ、そうですか。呼ぶ側の自由ですから、それならそれでけっこうですけど」

「ナナシくんは、寛容だね。おれはきみの自由を侵害しているのに」

「エリアンがエリアンと呼ばれたいなら、ぼくはそちらの自由を優先します。ぼくには、どうせ大した意志もありませんから」

「それはどうかな。意志の強さなんて、自分では案外わからないものだよ」

「それで、エリアンの墓というのは?」

「ああ、それね。こう見えても、一昔前は富裕な道楽者だったんだよ。暇にあかせて、いろんな場所に赴いて、行く先々で墓を買ったんだ。どこで死んでもいいようにね。まあ、若気の至りってやつだな。墓の先物買いなんて、やるもんじゃないよ」

「じゃあ、そのハムレット霊園にも?」

「うん、おれの墓がある。だからもしおれがきみの前で死んだら、手近な墓地まで引きずってみてくれ。きっとおれの墓があるから」

 黒い影の顔で、エリアンはにっこりと笑った。

 そんなわけで、影少年と詩人は、ハムレット霊園に向かって歩きだした。てくてくと墓地を目指して歩いた。

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