第8話 墓掘り人
霊園の舗装路からそれたところに、穴が掘られていた。深そうだった。穴のそばには、土の山があった。すすり泣くような声は、穴の中から聞こえてきた。
影少年と詩人は、穴を上からのぞきこんだ。底に、禿頭の男が立っている。両手に顔をうずめて、うっ、うっ、うっ、うっ、と、陰鬱な嗚咽をもらして、肩を震わせている。男の足下には、シャベルが突き立てられていた。
「どうして泣いているのですか?」
影少年が訊ねると、男はぴたりと嗚咽をやめた。黒い影の顔をあおいで、天から声をかけた者を探るように、疑るように見つめた。
「なんだ、あんたたちは?
「たぶん違います。ぼくたちは、死の意味を探しているだけです」
「意味なんてあるわけねえだろ、チクショウ。クソガキが。クソ、クソ、クソ……。みんな、馬鹿にしやがって。クズを高みの見物か? 虫けらを見ながらお茶会か?」
「死の意味はない、というのがあなたの意見ですね。承りました。ところで、どうして泣いているのですか?」
「穴を掘り終わったからだよ」
「あなたは墓掘り人ですか?」
「いまはな」
「作業の終わりは、嬉しいことでは?」
「残念ながら、まったく嬉しくない」
「なぜですか?」
「これが俺の墓だからだよ」
墓掘り人はそう言って、またも両手に顔をうずめて、うっ、うっ、うっ、うっ、と、すすり泣きを再開した。
エリアンはナナシと顔を見合わせ、にっこりと笑った。
「生きてるうちに墓を用意するのは、おれだけではないらしい」
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