第7話 お気に召すまま
そのまま霊園を散策していると、どこからか、すすり泣くような声が聞こえてきた。こもるような、甘えるような、魚の独り言のような湿っぽい声音だった。
「なんだろう?」
影少年は興味をひかれた。
「無視した方がいいよ。耳をふさいで、通りすぎるのをおすすめするね」
エリアンが忠告した。
「なぜです?」
「墓地の泣き声なんて、不吉じゃないか」
「エリアンは怖がりなのですか?」
「恐怖は感じないけど、迷信深くはあるね。泣いてる人間と関わりあっても、ろくなことにはならないよ」
「でもぼくは、死の意味を探しているんです。不吉に近づいてこそ、それは見つかるのかもしれません」
「ナナシくんは、勇猛果敢で猪突猛進な馬耳東風の、救いがたい影だね。死の意味を求めるハイエナだ。老爺のごとく死に近く、幼子のごとく詩に近いわけだ。どうぞどうぞ、お気に召すまま。おれはナナシくんについていくよ」
「それに、涙は無視できないでしょう?」
「おまけに優しいときたもんだ」
「無視できないというだけで、優しくはありません」
「そりゃそうだな。だれも優しくなんてなれない」
「……エリアンは、いつも適当に語っているのですか?」
「もちろんそうに決まってる。口のおもむくまま、手のおもむくまま、神の御心に任せて言葉をつむぐわけだ。詩想の涸れた詩人なんて、そんなものさ」
「他の詩人は違うのですか?」
「それはおれの方が訊きたいね」
影少年と詩人が話しているあいだも、すすり泣きはつづいていた。
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