第28話 死体の横たわる独房
「どう思う、ナナシくん。あの執事、明らかに怪しいじゃないか」
「マイペースな方ですね」
「まあ、きみも相当マイペースだけどね。おかしいなあ、詩人なんて人種は、だれよりもマイペースなものだと思っていたけれど、おれよりもマイペースな影がごろごろいる。世界は広いな」
「あの執事さんにとっては、この館だけが世界のようですけど」
「それもまたよしだな。空間の広さは必ずしも問題じゃない。世界は広いのではない、深いのだ、と書いていた詩人を思い出すよ。要はそこになにを見出だすかだ。認識の問題だな。胡桃の殻に閉じ込められても宇宙の王だと信じられる、そんな台詞もあったっけな。独房に広がる青空もあるだろうさ」
「死体の横たわる独房ですか」
影少年は、猫夫人の死体を見ながら呟いた。
「そうだ、そうだ、忘れるところだった。これは立派な殺人事件だよ。容疑者は、おれ、ナナシくん、あの執事。消去法で、執事に決まりだな。おれは殺人者の生態に興味があるから、あの執事を追うことをおすすめするよ。死の意味も見つかるかもしれない」
「ええ、異存はないです」
というわけで、詩人と影少年は、執事の消えた扉へと向かった。
影少年の冒険 koumoto @koumoto
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