第10話 女子を送る、その道がてら ①
「「…………」」
き、気まずい!
僕は心の中で叫んだ。
僕の家を出て約15分、一緒に家を出たはいいものの僕たちは言葉を交わせず、此処には沈黙のみが満ちていた。
一応言い訳すると、一度会話するにはしたんだが、
『なぁ』
『ん……なに?』
『……いや、なんでもない』
『……そ』
以上、会話終了。ほとんど会話出来なかった。
原因は自覚してる、何を話していいか分からないのだ。
……いや、少し違うか。
頭の中で自分の考えに自ら首を振る。
これはもっと根本的な問題なのだ。何を話せばいいのか分からないのではない。
何を話せばいいのか、そんなことは分かりきってる。宮野たちについて話せばいい。そのために駅まで見送りに行っているのだから。
だから、何を話せばいいのかではなく、どう話したらいいのかが分からない──要するに僕のコミュ
北山さんから話しかけてくれるとありがたいんだけど……。
「…………」
この通り北山さんも黙りこくっている。
黙ってないでなんか喋ってくれよ!
いや、分かってはいるんだよ。強引な方法で話しかけてきたのは神崎さんのために無理してたから、僕の家で奇行に走ったのは人目がなかったからだってことは。
僕の知る限り(といっても、ほとんど知らないが)北山さんは本来そういう人じゃない。少なくても普段の北山さんは僕や宮野みたいにコミュ力に難があるわけではないが、だからといって積極的に誰かに話しかけるような性格ではない。
分かってはいるんだなぁ……話かかけてくれないかなぁ……。
「大丈夫、村上君?」
「ん、なにが?」
「だって様子が変だったから──」
どんな様子だったのか自分ではわからないけど北山さんからしたら変な様子だったらしい。
心配した北山さんが話しかけてきてくれ……。
「──視姦されるのは嫌いじゃないけど、変な顔でチラ見されるのやめてくれる? 普通に気持ち悪いよ」
「喧嘩売ってんのかテメェ」
しまった、ただの悪口だ!
こちらが返事をするよりも早く近年類まれなるレベルの罵倒を浴びせられた。
わざわざ話しかけてきたのは気遣いなどではなく、僕がよほど変な顔をしていて気色悪かっただけらしい。心配なんかされてなんてなかったみたいだ……そこまで酷い顔してたかなァ。
これが僕じゃなかったら自殺していたか、或いはホントに喧嘩を始めていたところだ。実は流しそうになっていた涙を返してくれ。
「ハァ、馬鹿らしい」
「なにが?」
「なんでもないよ」
お前に対して身構えていたことに対してだよ、とは言わず頑張って飲み込んだ。
何はともあれ、これはチャンスだ。
せつこの機会を無駄にするわけにはいかないと会話を継続させるために頭を高速回転させる。なにか喋らないと……えーと……。
一生懸命に言葉を探す。
なにか、聞かないといけない、そんなことは無かっただろうか……。
「そういえばさ」
「ん?」
そう考えるとさっきまで悩んでたのが嘘のように話したいことが、聞きたいことが思い浮かんだ。
「なんで神崎さんは宮野を好きになったの? 知ってたら教えて欲しいんだけど」
それは昼休みからずっと心の奥底で感じていた疑問だった。
宮野が神崎さんを好きになるのはまぁ、わからなくはない。
美人で社長令嬢、聞いた話では誰とでも仲が良く(僕は話したことないが)気立ても良いらしい。このように
聞いた話では、男女問わず周りからの人気もありファンクラブまであるようだ。アイドルでもないのに現実で
ん? 内面? 交流がない奴の内面なんて知らん。知ってたら逆に怖いだろ。
そんなわけで宮野が神崎さんを好きになるの理屈はわかる。
だがその逆はどうだ。
宮野は確かにスポーツ万能、学力も余裕で上位、金髪もムカつく程度に似合う美形、とまぁここまでならモテそうだが、なにせコイツは訳あり物件だ。
コミュ障で友人や家族以外には会話がろくにできないし、ある程度親しくなったらなったで妙に芝居がかった話し方や偉そうな性格が正直ウザく感じる。
今までも何人かに恋仲の仲介を頼まれたことがある(全て断わった)が、その全員の動機が『彼氏がイケメンってステータスが高いじゃん』というものだった。
ちなみにその全員は自分で宮野に猛アピールしたらしいが最終的には断念したようだ。
その宮野に、あの神崎さんが?
あの人ならステータスとか気にする必要は無いだろうし、その気になれば宮野よりもいい男をつかまえられるはずだ。
そりゃ宮野には能力やルックスの他にもいいところはあるが──
理由がなんであれ協力すると決めた以上は最後まで、何があっても手を貸すつもりだが、それはそれとして聞いておくべきな気がした。
もちろん無理にとは言うつもりはないけど、
「ん〜……そうだね。いいよ、教えてあげる」
すんなり教えて貰えることとなった。
「え、いいの?
そんなにあっさり教えて」
「聞いてきたのはそっちでしょ」
「そりゃ、確かにそうだけどさぁ」
こっちから聞いといてなんだが、妙に後ろめたい気分だ。
本当に聞いてもいいのだろうか、そんな気がしてならない。
人によってはこういうことを他人に話されのは好ましく思わないだろう。
少なくても僕は嫌だ、恥ずかしいし照れくさい。勝手に暴露された日にはバラした奴を闇討ちしてもおかしくない。
北山さんには親友が恋に落ちた瞬間を勝手に、それも僕なんかに話すことに抵抗はないのだろうか?
「別にいいでしょ、やましい事がある訳でもなければ私が恥ずかしい思いするわけじゃないし」
「……いい性格をしていらっしゃる」
どうやら抵抗はないようだ。
「そりゃどうも。……あれはちょうど1年くらい前だったかな」
北山さんは皮肉のつもりで放った褒め言葉にテキトーな礼を言ったあと、過去を振り返るように空を見上げ神崎さんが恋に落ちた瞬間を語り始めた。
僕は空を見上げて話す北山さんを横目にに見つめ、そしてこう思った。
いや、話してくれるのはありがたいけど道路ではちゃんと前見て歩けよ。危ないだろ。
だが口にはしない。
こちらから尋ねたからには話を
北山さんの分まで安全に気を配りながら話に耳を傾ける。
「ベタかもしれないけど美空はよくナンパされるんだよね、美人だし。あの日も一緒に下校している時に5人組の、見るからに不良な人達にナンパされたんだよね……ついでに私も、」
「え、北山さんもナンパされたの?」
「……そこで疑問に思われるのは女としてはイラッて来るんだけど」
いや、だって言っちゃ悪いけど北山さんはブサイクというわけではないが──むしろ可愛い部類だが──ナンパされるほどの美人さんではないというか、花がない気がする。
いくら神崎さんのついでとはいえ、北山さんがナンパされたってのは疑わしい……。
「これでも結構声かけられるんだよ、私。なんたって胸が大き──」
「オーケー理解した」
「胸の説得力凄いね! まだ言いきってないよ!?」
あぁ、そりゃそうさ。おっぱいの嫌いな男はいねぇ、これ持論である。
「それで、そのナンパ野郎はどうしたの?」
「それがね、普段はテキトーにあしらうんだけど、その人達全員が刃物を所持していただったんだよね」
「そりゃ物騒な事で」
「そこを助けてくれたのが宮野くんだったんだ」
「なるほど」
それは確かにアイツらしいな。
宮野の場合はよくある事だ。大して驚きはしない。
──にしても、
「ベタだな」
「そうだね」
普通はこんなイベントが
だが、
「けど嫌いじゃないでしょ? こういう王道な恋バナ」
「確かに、こういうの……嫌いじゃない」
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