第17話 課題テスト、その結果 ②
──10分後。
「おい村上、次はこのゲームにしないか?」
「おけ。んじゃ始めようか──ん?」
今までやっていたゲームが一段落がつき、宮野の提案に乗って別のゲームを始めようとした時、不意に背後に誰かがいるような気がして後ろに振り返る。
「よかった。二人ともまだ残ってたんですね」
「二人とも帰ったかと思った」
すると後ろには待ち人の──さっき集まっていたリア充たち、その中心にいた──神崎さんと、その後ろに北山さんがいた。
「まあ一応。帰ってもよかったけど、宮野は残るつもりみたいだったから、僕はその付き添いで残っていただけだ」
僕はゲームをしていた手を止め、神崎さんたちの方に体を向け、自分が残っていた理由を言う。
「確かに、そうでもない限りゲームしながら放課後の教室に残って居残り、なんてことを、村上君はするわけないよね」
「そうだったんですか。すいません宮野さん。なんか待たせてしまったみたいで」
僕が残っていた理由を聞いて納得そうに頷気、神崎さんは律儀に宮野に頭を下げた。
それを見て、やはり神崎さん本当によくできた子だな、とそう思った。
こう言うと宮野辺りに『お前はお父さんか』などと言われそうで、言われたら癪で、だから口には決して出来ないが、本当に宮野に好意を抱いているというのならさっさとアイツの恋人になってもらえるとありがたい。神崎さんなら安心して宮野を任せられる、心の底からそう思える。
けど、それは今思うことじゃない。それに交流を初めて一週間、まだ交際するには早いだろう。ま、好きあっているならそんなこと、気にする必要は無い気もするけど。
とにかく今思うような事じゃない。
僕は雑念を振り払う。
「こっちが勝手に待っていただけだ。お前が気にするようなことではない。それよりも──」
この一週間で神崎さんたちと普通に話せるようになった宮野は、神崎さんの謝罪を軽く流し、通学カバンから何かを取り出して、それを神崎さんに見せつけるかのように机の上に置く。
「──神崎、お前は今回のテストどうだった?」
宮野が取り出したのはテスト結果報告書──ではなかった。
「お前はなんて物を見せながらテストの結果を聞きやがる」
予想を超える代物に思わず言葉が出た。
それは、グラビアのポスターだった。
しかもボディラインの整った女性が下半身には下着一枚、上半身にいたっては何の衣類を
「「「「…………」」」」
際どいグラビアのポスターを見せつけられ、思考を放棄したかのような表情になる神崎さん。
やらかしてしまい、冷や汗をその顔に滲ませる宮野。
神崎さんの少し後ろで、そういったシュチュエーションに憧れでもあるのか瞳を輝かせる
そして、グラビアのポスターをじっくり眺める僕。
みな、四者四様の表情を浮かべつつ、一様に沈黙する。
「す、すまん結果報告書出すつもりが間違えた!」
沈黙の中いち早く動いたのは、自分の失態──すなわちグラビアのポスターをすぐにでも片付けなければならないことにようやく気づいた宮野だった。
「どうやったら結果報告書とグラビアのポスターを間違えるというんだよ」
「同じA4サイズだからに決まっているだろうが!」
「別に決まってはないと思う」
「黙れ、とりあえずこれを片付けるから少し待っていろ」
僕の質問に対し粗雑に答えつつも、ポスターを片付けようと手を伸ばす宮野。
「まァ待ちたまえ」
だがその手を掴み、失態を晒してしまった宮野にオーバーキルを加えようとする悪魔がいた。
「どうしてそんな、いかがわしい物が〜、通学カバンに入っていたのか〜、僕、とても気になるなァ〜?」
もちろん僕だ。
これ以上ないくらいにウザイ表情と声で宮野に問い掛ける。
「村上、貴様……!」
まさかの裏切りに、怒りと驚きの目でこちらに睨みを利かせる宮野。
「お前の気持ちはわかるけど、とりあえず落ち着け。これは必要なことなんだ」
「……一体どこにそんな要素があるというのだ?」
「僕は一年、北山さんや神崎さんは一週間。僕たちが話すようになってから時間があまり経っていない。ここいらでお互いに理解を深めるべきだと思うんだ」
「なるほど、そんな深い考えがあったとはさすがだな我が友よ!」
僕の誠意が伝わったのか、宮野は理解を示し僕を褒め称える。
持つべきものは理解力高めの友人だね。
「で、本音は?」
「面白そうだから少しおちょくってやろうと思いました」
「そんなことだろうな」
大人しく騙されておけばいいものを。
本当に理解力が高い奴である。
「まったく、ここまで俺をコケにしたおバカさんはお前が初めてだよ」
「奇遇だね、僕もここまで人をおちょくりたいと思ったのは初めてだ」
「貴様ァ〜〜〜!」
毛を逆立てて怒気をあらわにする宮野。ともすると伝説の超サイヤ人になりかねない勢いだ。髪が金を染めているから余計にそれっぽい。
「まあまあ、落ち着きなよ宮野君。村上君も、程々にしないと宮野君が可哀想だよ」
「北山……」
北山さんのサポートに宮野は感動したかのような視線を向ける。宮野からしたら、北山さんはまるで天使のように見えていることであろう。
だが、忘れることなかれ。北山さんは紛うことなき変わり者である。
「そういうことは、あとから根掘り葉掘り、じっくり聞き出せばいいじゃん」
「北山!?」
実態は天使などではなく悪魔だった。
立て続けの裏切りに宮野は北山さんの名を、嘆くように叫んだ。
友人の裏切りに続いて、助けてくれたと思ったのに後回しされただけだったのだ。そりゃ嘆きたくもなるというものだろう。流石に宮野が可哀想に思えてきた。
この辺りが潮時だろう。
ひとしきり宮野の反応を楽しんだ(飽きた、不憫に思えてきたとも言う)僕は、そろそろちょっかい出すの切り上げることにする。
別にちょっかいを出さなければならないわけではないし、何より、先程──刺激の強いグラビアポスター見てからずっと放心状態の神崎さんを放置するのは失礼に当たる。
そう思い、北山さんに目配せで、本題に立ち戻したいと伝える。
「──で結局のところ、テストの結果はどうだったの?」
「そ、そうよね!」
「今! 今報告書を出すから待ってくれ!」
僕の意思を汲み取ってくれたらしい北山さんの言葉に、宮野と神崎さんは安心したかのように胸を撫で下ろし、すぐさまに便乗した。
どうやら、この手の話題は余程苦手だったようだ。
「今度こそ正真正銘本物のテスト結果だ。その瞳で
「ええ。では、わたしのもお渡ししますね」
宮野は、通学カバンから取り出した報告書を、余程テストの結果に自信があるのか得意げに、不遜な笑みで神崎さんに渡す。
対する神崎さんも、上品に、それでいて余裕たっぷりの不敵な笑みで、自分のテストの結果を宮野に見せる。
だが、気のせいだろうか。
二人の背後に龍虎が見えた気がした。
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