第16話 課題テスト、その結果 ①
放課後の教室で北山さんたちと勉強してから一週間が過ぎた。
その一週間の間に様々なことがあった。
みんなで『放課後に一緒に勉強した仲』というのを理由に集まって勉強したり、その帰りに北山さんと神崎さんが普段行かないというゲームセンターでゲームをしたり、何より課題テストがあった。
そして現在はホームルーム中、教壇では担任の先生が連絡事項を話しており、手元には課題テストの結果が記入された紙がある。
時間が経つのはあっという間。
祖父母や還暦を過ぎたオッサンがよく言っているのを耳にするが、確かにその言葉通りだと、そう思った。
この調子だと僕が童貞のままオッサンになる未来もそう遠い出来事ではないかもしれない。
「——連絡事項は以上だ」
話を切り上げようとする担任の言葉で思考が現実に引き戻され、話をちゃんと聞いていたという素振りをとる。
「全員、自分のテスト結果報告書は受け取ったな」
「「「…………」」」
「うーし、沈黙しているってことは手元にあると解釈する。これでホームルームは終了だ。各々、今日返した課題テストの結果を参考にし、一ヶ月後に控えいる中間テストに向けて頑張るように」
「「「ええ~」」」
「情けない声を上げるな。課題テストの結果が今学期の成績に与える影響は一割程度なのに対し、中間テストと期末テストといった定期テストは六割、もろに影響が出るから覚悟しておけ」
そう言うと、二メートル近くある、趣味であるボクシングによって鍛えられたという肉体を有するわれらが担任、国語教諭の
それを合図にみんな帰り支度を済ませて下校するか、もしくは部活動の部室の方へ移動していく。
んじゃ、僕も——、
「村上、今回のテストはどうだった?」
クラスメイトたちと同じように席を立とうしたら、前の席に座っている宮野がこちらに体を向けてテストの結果を聞いてくる。
コイツが他人のテストに興味を示すのは珍しい。
「普通かな。……はい、これが結果」
通学カバンからテスト結果報告書を取り出した僕は、浮かせていた腰を下ろし、宮野にそれを渡す。
「ほう? 貴様が素直に言うことを聞くとは、珍しいこともあるのだな」
「うっせ」
今回のテスト、僕は宮野に勉強を教えてもらっている。
普段テストの点数を聞いてこない宮野が、テストの点数を聞いてきたのはそれが理由だろう。
なら拒む理由はない。見られて困るものでもないし。
「ふむ……」
テスト結果報告書を受け取って確認する宮野。その目は真剣そのものだ。
見られても困らないと思っていたけど、そんなにも真剣だと困るというか息が詰まってしまう。
宮野が僕のテストの結果を見つめること数秒——、
「いいんじゃないか」
「ほっ」
悪い反応が返ってこなかったことに思わず安堵する。
「ま、まァ僕くらいにもなればこのくらい」
「と言っても、そこまで凄くもないけどな」
「上げてから落とすな」
「いや、お前の学年順位は百十五人中五十六位だぞ」
「? 上出来じゃないの?」
「確かに普段のお前なら下の上、良くて中の下くらいの順位を取っていた。そう考えると、あまり成績に響かないって理由で勉強しなかった奴が多かったとはいえ今回のテスト、村上にしてはよくやった方と言えるだろう」
「だろ」
「とはいえ、だ。今回のテストはそこまで難しくはなかったし、なにより、俺様や学年首席の神崎が勉強を見たんだ。もう少し上を狙えたはずだ」
「くっ」
反論、出来ないッ……!
確かに、今回のテストは学力上位に属する宮野と神崎さんに勉強を教えてもらっていた。
別に頭のいい人間に勉強を教わったからといって、自分まで頭がよくなるとは限らない。
けど、他の人よりも有利だったことには変わりない。それで結果が普段よりはマシ、程度じゃ教えた側からしたら不満に思っても仕方ない。
とはいえ、頑張ったのに大したことないみたいに言われると気持ちよくない。
「そういうお前はテストの出来は良かったのか?」
他人のことをとやかく言えるのか、というニュアンスを込めて宮野のテストの結果を聞く。
「いや、まだ確認はしてない」
「え、なんで確認してないの? テストの結果とか気にならない?」
「なんでと言われても。いや、確かに結果が気にならない訳では無いんだが……」
「じゃあどうして?」
「俺一人、先に結果を見るのはいけない気がするだけだ」
「はぁ? お前は何言って……ん? 一体お前はどこ見て話してるんだ?」
宮野がこちらに視線を合わさずにまったく別方向を見ながら話すから、その方向に何があるのか気になってその視線をたどってみる。
そしたらまだ教室に残り、集まって談笑していたリア充たちの中心にいる一人の女子生徒──ここ最近、宮野と一緒に僕に勉強教えてくれていた神崎さんの姿が見えた。
それを見て、なぜ宮野がテストの結果を確認していないのか、会話に花を咲かせているリア充たちに視線を向けたのかを理解した。
「あー、なるほど。そういうことね」
「その顔ムカつくな。ニヤニヤするな」
「それだけ微笑ましいってことだよ。別に良いではありませんか」
そう言うと、僕はニヤつきを隠すことなくリア充たちに視線を向ける。
どうやらまだ会話を切りあげる気配はなさそうだ。
「まだ時間かかりそうだしゲームでもするか?」
「帰るんじゃなかったのか?」
「別に帰ってもいいけど……そしたら、お前はリア充たちが話している中、一人で待つことになるけどいいの?」
「……正直助かる」
「素直でよろしい。ついでだし協力プレイできるやつしない?」
「いいだろう」
そう言うと僕たちはスマホを取り出してゲームを始めた。
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