第11話 女子を送る、その道がてら ②

 いいよね、そういうマンガとか小説などでよくある王道的でベタな恋のはじまり。年甲斐もなくワクワクしてくる。

 トラブルに巻き込まれて困っているところにさっそうと現れ助けてくれた男の子に恋に落ちる女の子。

 うん、ロマンがあってとてもいい──。



「うん、今でも思い出せるよ。高笑いしながら刃物を持った不良たちをボッコボコにし続ける宮野くんと、その姿を見てうっとりとした表情を浮かべていた美空を」

「ちょっと待って、僕の思い浮かべてたイメージとなんか違う」



 想像の5倍はバイオレンスだった。

 どうしよう、できるかできないかの前にこの恋は応援していいのか不安になってしまいそうだ。


 ふむ、ちょっと待てよ……。



「そういえば、ついでに聞いておきたいんだけど……」

「? なに?」

「いや、別にどうでもいいことだけどさ、その時にさ、その場に僕はいた?」



 僕は高校に入ってからよく宮野と行動を共にしている。

 そのおかげで宮野のケンカにも何度か立ち会ったことがある。


 もしかしたらその時も一緒だったかも……。

 なんか気になったから一応聞いてみる。



「ん〜……村上君はその場にいなかったと思うよ」



 北山さんは少し記憶を漁るように唸っていたが、すぐに首を振る。

 どうやら僕はその場にいなかったようだ。

 ……まァ、その場にいたとして、僕に何かができたわけではないが……。



「あ」



 北山さんが突然なにかに気づいたのように声を上げた。



「? どうかした北山さん?」

「いや、いつの間にか駅に着いてたみたい」

「あ、ホントだ」



 話に夢中で気がつかなかった。

 僕たちは気づかないうちに駅にたどり着いたようだ。



「結局なんの案も出なかったね」



 はにかみながら笑う北山さん。だがどこか残念そうだ。


 まぁ気持ちはわからなくはないが……。


 確かに具体的に何をするのかを考えるために話し合っていたはずのに結局なにも決まらずじまいだった。要するに今日の話し合いは無駄だったような気がしなくはない。


 けど、



「ま、別にいいんじゃね」

「? どうして?」

「いや、こんだけ考えて何も思い浮かばないんだ、無理に考えを振り絞っても何も出ないよ。それにさ、」

「それに?」



 不思議そうな顔をする北山さんに向かって少し得意げに笑みを浮かべ当たり前のことを言う。



「わざわざ難しく考える必要なんてない。そもそもちょっとバイオレンスだったとはいえ、ベタから始まった恋の手助けだ、別に奇抜でロマンティックな案なんていらねーよ」



 というか、僕らごときにそこまでの名案は思い浮かばない気がする。二人では文殊の知恵は閃かないものだ。

 だから、



「深く考えずに普通な方法でいこうぜ。そりゃ、多少の打ち合わせとかはしないとだけど」

「けど、それだけじゃ結局今日集まったのは無駄ってことに」

「なるわけないだろ」

「……そうだね」



 頷く北山さん。けど表情や声はどこか少し申し訳なさそうにしていた。

 ……いや、僕的に少しカッコつけたのに帰ってきた反応がそれだと僕が空回りしたみたいで恥ずかしいんだけど。


 それにしてもどうして申し訳なさそうなんだろう?

 もしかして無理やり呼び出したにもかかわらず具体的な案が出なかったことに負い目でも感じているのかな。


 ……なんってめんどくさい人なんだろう。めんどくさ過ぎて思わず呆れてしまった。

 これなら罪悪感なく振り回してくれたの方がまだマシだ。


 別に僕たちがやろうとしているのは自主活動であって義務ではないのだからそこまで責任を感じるようなことではない。それにその理屈でいえば一緒に考えてた僕にも責任があるみたいじゃないか。


 ……さて、どうしたものか。

 もう駅に着いたわけだしこのまま帰ってもいいけど、このまま負い目を感じさせたまま北山さんを帰したら僕の方こそ申し訳なさに押しつぶされそうだ。

 なにか気の利いたことを言うべきなんだろうけど……。

 こういう時なんて言葉をかけたらいいんだろう?

 頭の中で様々な考えが飛び交うが言うべき言葉が見つからない。



「北山さんは最近ハマってるゲームとかないの?」



 ちょうどいい言葉が見つからないから思いついた言葉を投げつけることにした。



「え……う、うん一応してるとけど。あの最近アニメ化されたのとか」

「そうなの? 奇遇だね僕もアレやってるんだ〜」

「へ、へぇーそうなんだ」



 北山さんは意外そうなリアクションを返してきたが、むしろ北山さんがその手のゲームをしていることの方がなんか意外な気がする。来週には課題テストあるっていうのに。



「そういえばもうすぐ課題テストがあるけど自信の程はどう?」

「授業は真面目に受けてからそれなりに自信あるけど……」

「へ〜凄いね、僕は勉強も苦手だから赤点取らないか心配だよ」

「だろうね。村上君て典型的な勉強しなさそうだもん。授業中もよく寝てるし」

「それは仕方ないことだと見逃して欲しい」



 睡魔に勝てる人間など、そうはいない気がする。

 とはいえこのままだと赤点を取ってしまう。何か手はないものか……。



「そうだ、今度勉強会をするってのはどう。それで宮野と神崎さんを呼ぶのはどうかな!?」

「うん、いいんじゃないかな」



 よし!

 思わぬ収穫に小さくガッツポーズする。



「コミュ障以外には弱点がない宮野とほとんど交流したことの無い神崎さん、そして胸のでかい北山さん、」

「私の評価おかしいくない?」

「これだけの人材に勉強を教えてもらえば赤点の心配なくテストに挑めるってモンよ!」

「いや、不安要素消えてないよね!? それに、勉強会というか村上君に勉強を教えるのための会みたいになってるし!」

「どこが?」

「自覚ないの!?」



 一体どうしたのかな?

 よく分からないけど北山さんのテンションがおかしいい。変な物でも食ったのかな?

 何はともあれ負い目が無くなったようで何よりだ。


 だが今の僕にはそんな事どうでもいい。赤点回避の目処がたった上に、何気に宮野たちをくっつける作戦案その1(仮)ができたのだ、もっと話しを──。


 そう思った時、遠くからガタンゴトンと、微かに電車が来る音が聞こえてきた。



「電車来たみたいだね」

「うん、そうだな」



 そう言っている間にも電車の走行音がどんどん近くなってくる。もうすぐこの駅に到着するだろう。


「じゃ電車逃したら困るから私もう行くね」

「じゃあね、帰ったらメッセージアプリで勉強会の事とかについてメッセージを送るから」

「うんわかった。駅まで送ってくれてありがとう」

「おう」



 僕としてはもう少し話したかったけど仕方ない。

 僕は最低限伝えるべき事を伝えたあと、北山さんは駅のホームへ向かうのを見てから、僕も自分の家に帰ろうと歩きだそうと背を向け──、



「あ、そうだ言い忘れてたんだけどー!」

「?」



 ちょうどその時、背後からそう呼び止められた。

 一体何をだろう?

 そう思い後ろを振り返ると北山さんも振り返ってこちらを見ていた。



「ん? どうしたの、何を言い忘れたの?」

「私に気を使ってくれてありがとうっこと言い忘れてて、さっきのゲームとか勉強の話って私の気を紛らわせるためだったんでしょ」

「げっ、バレてたのかよ……」



 言わぬが花、という言葉を知らないのかな?

 思わず頬が引きる。



「そりゃわかるよ。村上君て誰かと話すのそんなに好きじゃないのに唐突にゲームの話とかしてくるんだもん」

「マジか」



 バレてないと思っていたのに〜〜〜!!

 別に何か悪いことをしたわけではないけど妙に照れくさいというか恥ずかしくなる。

 この感覚をどう表現すればいいんだろう?

 なんていうか、アレだ。手品をしようとして失敗した時、小さな子に見ないふりしてくれてたのを後で知った時のような感覚。

 ……穴があったら入りたい。

 自覚すると余計に恥ずかしくなった。



「村上君のおかげで心が軽くなったよ、ありがと」

「……別に、あのまま帰られると僕が落ち着かなかったてだけだから、感謝されるようなことしてないよ」



 僕の心境を知ってか知らずか、あるいは純粋に嬉しいのかはわからないけど、満面の笑みで感謝の言葉を言う北山さんに、僕は無愛想な返事しかできなかった。


 そうこうしてるうちに駅に電車が到着する。



「それよりも電車が来たよ。あまり長くは待ってくれないだろうから早く乗ったら?」

「うん、そうする。今日はありがとう、連絡待ってるから」



 北山さんは僕の忠告にうなずくとそう言って今度こそ振り返らずにホームの方へ向かって行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る