第12話 送り届けた帰り道
北山さんが電車に乗るのを見届けた僕は、北山さんと二人で歩いた道を辿って自分の帰路についていた。
「それにしても今日はいろんなことがあったなァ……」
一人で物思いにふける。
ホントにいろんなことがあった一日だった。
昼休みが一連の出来事のきっかけだった。女子に屋上へ連れていかれ、おっぱいを見せてもらうため土下座をしたり互いの友人を恋仲にするキューピット役、その手伝いを頼まれた。
6時限目の授業では宮野が神崎さんに恋していることを知って北山さんに協力することを決めた。
他にも、放課後は北山さんで神社で待ち合わせしたあと脅されて家に上げたり、目を離した隙に僕の
こんなに濃密な一日を過ごしたのは生まれて初めてだ。
もしかしたら今日この一日の濃さには、ここ最近の、一ヶ月分の出来事の全部を濃縮してもかなわないかもしれない。
当然というか心身ともに疲れ果て、今すぐ布団に寝転がりたいくらいだ。
でも楽しかったァ。
そう思うと自然と笑いが溢れて来る。
「アハハハハ」
……いや、なにしてんの?
唐突に我に返った。
ホントになにこれ、冷静に考えて普通じゃねーよ。
え、なに、なんでたった一日でこんなに色々なことが起きてるの?
完全に
思い出すと頭が痛くなってきた。
いかんいかん、何か別のことを──、
『彼女だぁ? 今更どんなに身なりが整えても俺の振る舞いを見てなろうなんて奴いねーよ』
現実逃避気味に思考を巡らせていると、頭の中がごちゃごちゃしていたせいか、不意に宮野が昔言ってた言葉を思い出した。
あれは確か……そう、僕の記憶が確かなら去年の7月、その上旬頃だったはずだ。
まだその時は僕たちが休み時間や放課後などによく話すようになって間もない時で、とくに話題がなかったから世間話的な感覚で彼女を作らないのかを聞いたことがあったのだ。
その時に先程頭をよぎった言葉を宮野が言っていた気がする。
その時の僕は『そんなことは無い』と答えたが実際はその通りだった。
言い寄ってくる女は何人もいたけどほとんどの人は宮野の扱いにくさに匙を投げた。たまにそれに耐えうる猛者もいるにはいたがソイツらも宮野の行いに怯え、そして去っていった。
なぜならアイツは暴力沙汰のトラブルをよく起こす。
まぁ、神崎さんの一件のように(そこまで過激なのもそうないが)その手のトラブルのほとんどは人助けのための行動だ。
そもそもコミュ障のアイツが、手を出さざるを得ない状況でもない限り、たとえ喧嘩だろうがゲームだろうが、好き好んで他人と接しようとするわけがない。
学校側もそれを理解しているから宮野に停学処分等を下したりすることはなかった。
それでも他人が怯えるには充分すぎた。
どんな理由があっても暴力を振るうような人はふつう怖がられる。
はたから見ていた僕や、そして多分宮野もそれはわかっていた。
だから仕方ないと、そう諦めていた。
だけど神崎さんは宮野に恋をした。
北山さんが話してくれたことが本当なら、神崎さんが宮野を好きになった出来事は聞いた感じ宮野が高校に入ってからしたケンカの中でも僕の知る限りでもかなり過激な部類だ。
それでも神崎さんは、そのときの宮野の振る舞いを見た上で、自分を助けた宮野に惚れたのだと言う。
それを聞いたとき僕は驚きと、そして喜びのようなものを感じた。
宮野が自分に彼女は無理だと言ったとき、顔ではクールぶっていたがどこか悲しそうだった。
いくら暴力を振るったといってもアイツがしたこと、その根底にあるのは人助けだ。
それなのに誰にもそのことに気づいてもらえず、それで怖がられたら悲しくもなる。
けど神崎さんと北山さんは違った。
何故そうしたのか、それをちゃんと理解して神崎さんは宮野を好きになり、北山さんは神崎さんの恋が実るように行動を開始した。
それはつまり、今まで孤独だったアイツに理解者ができたことに他ならない。
「困った、これじゃ『やっぱやめた』……なんて言えそうにないな……」
宮野と神崎さんは両片思いだ。
北山さんと神崎さんは孤独だった宮野に初めてできた理解者だ。
それに神崎さんと付き合うことができたなら宮野の『自分に彼女はありえない』という固定観念を壊すことだってできるはずだ。
なにより僕は宮野には少しだけ貸しがあるし、協力した見返りに北山さんのおっぱいが待っている。
どうしよう、協力する理由がありすぎる。
流されやすい性格というのは自覚している。
だが、それを抜きにしても、だ。
これでは途中で逃げたりなんてできそうにない。
あァ、全く──
「しょうがねーなァ」
諦めるのを諦める。
こうなったらとことん流されてやろうじゃないか。
もとより一度協力すると決めたんだ。逃げるという選択肢がなくなっただけでやるべき事に変わりはない。
むしろ宮野への貸しを返すどころか恩を売ることだってできるかもしれない。
だから何も問題ないはず、きっと多分……。
そんな事を思いながら僕は帰宅した。
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