第1話 これが僕の日常

 4月15日、まだ高校2年生になって間もなく、桜も未だに舞い散っているこの季節。


 ──リア充どもの命もあんな風に散ってくれたらいいのに。


 ふと、教室の窓から少しずつ散っていく桜の花びらを見ながら、そんな柄にもないことを思ってみたが──



「まぁ、僕には関係ないな……」



 そう結論づけてラノベを机の中から取り出して読み出す。


 僕にとって、二年生に進級したことは割とどうでもいい事だった。

 2年生になったからといっても、うちの高校はクラス替えなんてものは無いから人間関係がそんなに変わるようなことは特にない。


 実際に見た感じクラスメイトの殆どが同じクラスの、去年と同じ派閥のメンバーで集まって喋っており、それ以外の派閥のメンバーには興味を向けない。


 恐らくみんな同じなんだろう。

 結局、口では『代わり映えのない日常はうんざり』だの『刺激が欲しい』などと言いつつも、誰も彼もが変化なんて求めてなんておらず、今あるもので満足して停滞自己満足に浸っているのだ。だからどこかの誰かがきっかけを与えない限り自身を、または人間関係を変化させようとしない。

 多分、僕が今さっき思ったことが現実になってリア充が死に絶えたとしてもそれは変わらないだろう。


 ちなみに僕も変化なんて真っ平だ。僕は今の自分や環境をとても気に入ってるし、なにより疲れることは嫌いだ。


 だから今日も僕はイヤホンをつけ、自分の席に手に油などがつかない様な菓子とコーヒーを準備。そしてライトノベルを手にして自分の世界に没頭する。


 いやー、それにしても高校というのも悪くない。中学校ではこんな贅沢許されなかったからな!

 ビバ、高校生活!

 これが僕の日常だ!



「おのれーーー! おのれおのれおのれおのれおのれおのれ……!!! 何故このオレが! これだけ課金しても尚! 爆死せねばならんのだ!!?」



 ……そして、僕の真ん前の席の住人が変な、押され気味の英雄王の如きテンションで騒ぎだすのも含めて僕の日常である。



「ハァ……、なあ村上よ。何故オレは爆死をしたのだ? 特別に答える権利を貴様にやる、く答えよ」

「………」



 ある程度叫び散らかして気が済んだのか前の席の住人がため息をつきながらこちらに振り向いて(謎の上から目線で)話しかけてきた。


 にしても、いつもの事ながら何でコイツは上から目線なんだ。

 少しイラッとしたので無視してみよう。



「おい、早く答えないか」

「………」

「おい、聞こえているのだろう」

「………」

「貴様に言っているのだ、村上よ。陰キャで、人付き合いが苦手な上に、文武ともに下の上、良くて中の下止まりなオタクの貴様に、このオレ自らが友人として話しかけてやっているのだ。だから早く……答え、て……無視しないで……グスン……」

「……チッ、まるで読者に僕という人間を端的に紹介するかのようなセリフどうもありがとう。だから呼びかけやすすり泣きはもう十分だからとりあえず泣きやめろ、な?」

「わ、わかっでる……」

「あと、僕はあくまでオタクだ。オタク扱いするんじゃない」



 僕にとってオタクやニートのような人間は、たとえ他人から白い目を向けられても尚、自分の趣味や考えを貫くことの出来る、実践している素晴らしい方々だ。

 僕のようなにわかオタク半端者風情と一緒にして欲しくない。


 だが悲しいかな。世の中というものは、自分が伝えたい事はいつも上手く伝えられないように出来ているらしい。

 僕の言いたかったことも例外ではないらしく、上手く伝わらなかったようで、「お前のその拘りよく分からん……」と言われた。

 せぬ。



「はぁ……。まぁ、そのことはまた今度でいいや。で、なんで爆死の理由を僕に聞く? 他の奴に聞けよ」



 僕は露骨に面倒くさそうな顔で前の席の住人──宮野みやのかけるに『他所よそに行け』のジェスチャーをする。



 一応弁明しておくと、雑な扱いをしてはいるが僕にとって宮野は数少ない友人だ。


 定期テストでは常に上位。身体能力に関してはスポーツ、格闘技、例えルール無用のケンカであっても負けたことは無い。

 しかもルックスは良く、背が高い上に染められた金髪もよく似合ってる。……少なくても同じ男として敗北感と殺意を覚える程度には。

 そんな奴と僕が友人でいられるのは同じ共通点を持っているがコミュ障同士故だろう。

 そうでなければこうして話し合う時間さえなかっただろう。


 もしもコイツ宮野ごうがんそんな言動とメンタルの弱さを治すことさえ出来れば立派なリア充になれただろうから。



「愚問だな。それは貴様が、貴様こそが、オレにとっての唯一の友であり、それに……」

「それに?」

「ほ、他の人ちょー怖い……話したことのない人……お、恐ろしい……(ガクガク、ブルブル)」

「重症だな」



 コイツがリア充になるのは無理そうだ。



「はぁ…このまま話を進めても詰まらないから本題に戻すけど、一体何に課金したんだ?」

「それはわざわざ聞くような事か?当然ソシャゲのガチャに決まっていよう。あのゲーム、最近アニメ化したであろう。あれを見ると、あのキャラがどうしても欲しくなってしまってな」

「あ〜、その気持ち分かる。俺も何回かあのガチャ引いたけど、あのキャラは出なかったんだよなー。ま、流石に課金はしていねーよ」

「ふん、つまらん奴め。課金ぐらいすればよいものを」

「うっせー、普通はそんなに課金をしねーんだよ、ばーか。大体な──」



 僕らはそんな他愛のない会話をいつもしていた。


『退屈だな』とぼんやり思いながらも、1人で過ごす時間や、何だかんだで気の合う友人と共通の趣味について話して過ごす高校生活を楽しんでいた。


 これといった変化なんて要らない。

 これが僕の日常だ。



「ねえ村上君、話があるんだけどちょっといいかな?」



 そう思ってた矢先、全く交流のなかった女子に話しかけられた。

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