第2話 これが僕の日常?

「ねぇ村上君、話があるんだけどちょっといいかな?」



 変化なんて要らない。そう思ってた矢先、全く交流のなかった女子に話しかけられた。



 ……これが僕の日常?



「いや、ちょっと待って、何かがおかしい」



 というか根暗陰キャが女子に話しかけられるなんてどういうこと? 有り得る? いいや、有り得ーないでしょ。Why? え?



「ハッ、まさかカツアゲか!?」

「話しかけただけで不良認定されると此方としては大変困るんだけど」



 いや冷静になるんだ僕、焦るんじゃない。可能性としては、特に意味のない集団リンチや宮野と仲良くなるために利用される可能性、もしかしたら『私とえっちしよ?』からアレな展開になって彼女を僕好みに調教ということも……ゴクリ……。



「いや、最後のは無いな。趣味嗜好や好奇心としては大いにアリなんだが……」

「私はエスパーじゃないから一体何を考えてるのか分からないけど一応ツッコミを入れとくね。君の思考回路は一体どうなってるの?」



 いや〜どれだけ自分に嬉しい展開であっても守るべきモラルや法というものがあるし……いや、そもそも三次元現実じゃこんな展開ありえねーな、チクショー。

 だが、そうすると残る可能性は『カツアゲ』、『集団リンチ』、『利用』のどれか、或いはもっと別のことが目当てということに……。


 クソ、何故話しかけてきたのか全く分からない。一体何が目的なんだ?



「どうしよう……全く考えがまとまらない……」

「いや、あの、話しかけただけでそんなに困られても逆にこっちが困るんだけど……」



 そもそも女子に(男子からもだが)話しかけられた事なんてほとんどない(嫌われたり、虐められたことはあるが)からこういった場合どうすれば良いのか、その知識がないから分からない。

 かといって、シカトするのもなんだし……。



「しょうがない……宮野、お前って女子に話しかけられた事あるよな。この場合女子に話しかけられた時ってどうすればいいの?」

「あの、そういうのって相手がいない時とか相手に気づかれないようにすべきだと思うよ、相手としては」



 こう言う時は慣れている人間に聞くのが一番だ。

 宮野イケメンの事だから女子にチヤホヤされたこと多いだろうし、きっといい答え方を知っているはず──、



「話した事ない人、怖い……(ブルブル)」

「駄目だコイツ全然使えねー」



 聞くだけ無駄だった。

 理解してるつもりだったが、宮野の人見知りがこれ程だったとは……。



「コイツに一瞬でも期待した僕がバカだった」

「いや、宮野君も村上君には言われたくないとないと思うけど……」

「失礼な」



 なんで初対面の女子ヒトにここまで言われないといけないんだ。

 それだと僕が宮野と同レベルみたいではないか。

 全くもって心外である。



「そう言われても、ついさっきまで無視されていたし、付け加えるとポロポロと考えてることが口に出てたし」

「え、マジで?」

「うん。あ、でも無視していたことに関しては気にしなくていいよ。放置されるのは結構気持ちよかったから。むしろご褒美だった、ハァハァ……」

「そ、そうか。ならよかったよ……」



 その発言についてはあまり深くは考えないようにしよう。大人の階段とは少し違った物な気がする。



「それと、考え事に夢中で聞こえてなかったみたいだったからもう1回言うね」

「なんか言ったの?」

「言ったの、さっき──」



 どうやら僕が混乱している間に何か言っていたみたいだ。『シカトするのはどうかと思う』って思いながらシカトしてたのは流石に申し訳ないな……。



「──どう話したらいいか分からないからと言って相手の前や相手にも聞こえるような声で、他の人に『コイツとどう話せばいいの?』って聞くのはどうかと思うよって言ったよ」

「あ、ホントに申し訳ないヤツだコレ」



 うん、それは僕自身もどうかと思う。

 どう対処するのかで頭の中いっぱいにした結果、当人の存在を忘れるだけに飽き足らず、更に失礼の上乗せするとは本末転倒にも程がある。

 とにかく謝らないと。



「えーと、その…ごめん、僕が悪かった」

「全く、北山の言う通りだ。恥を知れ、恥を」

「だが宮野テメェにそこまで言われる義理はねーよな!?」

「私、恥を知れとまでそこまでは言ってないよ!?」



 それに恥で言うなら宮野の無駄に芝居がかった大仰な喋り方の方が恥ずかしいだろう。それに人付き合いに至っては僕よりも苦手だし──。



「そういえば宮野が他人の名前を覚えてるなんて珍しいな」

「うっ……」

「クラスメイトなんだしそれ名前を覚えてるのが普通だと思うけど」

「そ、そうだ。このオレがクラスメイトの名前を覚えるぐらい普通のことであろう」

「普通はそうなんだろうけど……」



 コイツは僕と同じで、自分に関係のない人間や興味のない人間を記憶しない類の人間だ。

 多分、担任教師の名前すら憶えていないことだろう。

 その宮野がたかがクラスメイトの女子──北山さんとやらの名前を覚えてるなんて一体どういうことだ。



「………(じ〜)」

「……なんだよ」

「さてさてサーて?僕はただ不思議だな〜と思ってるだけだが(じ〜)」

「……チッ、神崎の親友だから記憶に残ってただけだよ」

「神崎…?」



 僕が宮野を軽く睨みつけると耐えきれなくなったようだ。すぐに白状した。

 にしても、神崎……ん〜誰だっけ?聞き覚えはあるんだが。



「あっ!忘れてた!」



 僕がそんな感じで悩んでると、その神崎さん?の親友らしい北山さん(仮)が急に大声を出したので振り向いてみると慌てふためいていた。



「一体どうしたんだ? えーと、北山さん(仮)?」

「どうしたじゃないよ。本人に面と向かって(仮)をつけるのはやめてほしいな……あと、君に話があったんだった」

「そういえば、んな事言ってたな。すっかり忘れてた」



 ついでに忘れたままが良かった。



「ここで話すのもなんだし、ちょっと移動しようか」

「は、何言ってんだ? ヤダよめんどくせェ。というか昼休みもあと20分しかねーし諦めようぜ」

「大丈夫、話自体は10分あれば事足りるから。村上君を借りていくね宮野君」

「よかろう、存分に借りていくが良い」

「勝手に了解してんじゃねーよ」

「何を言うか。このコミ障ワレが女子を何とかできるはずもなかろう」

「役たたずだな」

「類友ということだな」

「ほら早く行くよ〜」

「ハァ……、もうなるようになれ……」



 そんな感じで僕は連行されて行った。


 ついでに、名誉のために言っておく。

 僕は力ずくで抵抗をしようと思えばできたが、それでも尚大人しく連行されてやったのは、後でもっと別の方法で(何かは分からないが)呼び出される可能性を考慮し恐れたからだ。

 すなわち、僕は暴力に屈したわけではない。そう、恐怖に屈したのだと!


 男としての意地プライドの保つ為にそう言っておくとしよう。


 ……というか、女子に話があるからと連行されるのが僕の日常だったけ?

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