第3話 これが僕の日常ではありません! ①

 僕が連行されて来たのは屋上だった。



「ここなら2人きりだね」

「そうだな」



 僕は周りを見渡しながら北山さんの言葉に同意する。


 本来、この学校の屋上は生徒は立ち入り禁止で鍵が掛かっており、内緒話をする上でこの屋上は最適の場所と言えるだろう。

 一応、不良や校内プレイに耽っているカップルがいる可能性を心配期待して周りを確認してみたがそういった輩もいなさそうだった。


 ちなみに僕たちが屋上に入れたのは北山さんが屋上の鍵のスペアを秘密裏に持っていたからだ。

 入手ルートは北山さん曰く、『その手の事が得意な友人商人』だそうだ。

 最近の高校生の交友関係って凄いね、友達が少ない僕としてはビックリだよ。後でその友人商人を紹介してもらおう。


 余談だが、屋上への立ち入りが禁止されている理由は『昔1人の生徒が屋上で虐められていたが、ある日、その虐められていた生徒が虐めっ子の1人を突き飛ばささやかな反抗をした結果、突き飛ばされた生徒とその近くにいた生徒が屋上から転落し、罪の意識を感じた虐められていた生徒も屋上飛び降りたから』というものだ。

 それ以来屋上は立ち入り禁止とされ鍵をかけられている。



「んで、僕に一体何の用だ?」



 僕は北山さんにこんなところ立ち入り禁止されている屋上に連れて来た理由をたずねる。


 神崎さんとやらの名前を聞いて、屋上ここに来るまでの間に北山さんについて思い出した。


 フルネームは確か北山きたやま 雪菜ゆきなだった気がする。この学校スクールカーストの頂点に君臨する神崎さんの親友という以外は、セミロングの茶髪に大人しそうな顔、女子としては平均よりも少し低めの身長といったそこまで目立つ要素のない、いたって普通の女子という印象だ。僕が北山さんの名前を思い出したのも神崎さんの親友だったからだし。

 それでも他の特徴を強いて言うなら平均よりもやや身体の一部胸部発育が良い事くらいかな?

 ……C、いや、Dカップか……?いや、パッドという可能性も……。



他人ヒトの胸を正々堂々とガン見鑑定するのはいかがなものかと私は思うよ」

「ん? ……あぁ悪かった、悪気はなかったんだ許せ」

「少しも悪びれないね村上君!? たとえ悪気がなくても少しくらい悪びれるべきだと思うよ!?」




 いや〜それにしても、女子のアレを露骨に見てしまうとは、危ない危ない。

 セクハラと取られてもおかしくないところだった。


 とりあえず今は胸のことや性欲は頭の隅に置いておいておこう。今はなぜここに呼ばれたのかを問いたださねば。



「ちなみに過小評価されていた気がしたから一応言っておくと着痩せしてるだけで私の胸はEカップ」

「なぜこのタイミングでのカミングアウト!? あと、過小評価していたつもりはねーよ!」



 せっかく性欲を頭の片隅によせたというのになんで胸のその話を続けようとするんだ!?

 落ち着け、落ち着くんだ僕……今は性欲に負けている場合なんかじゃないだろ!

 今すべきは――



「本当にEカップあるのか確かめさせてください!」

「いや、何してるの村上君⁉」



 土下座である。



「ねえ、話がそれてない? ここに呼び出したわけについて話そうって流れだった思うんだけど……」

「確かに男女が、二人きりで、人気のない場所に移動しなきゃできないような用件についても聞きたいとは思ってる……」

「大きく間違ってはいないけど誤解されかねない言い方やめて!」

「だが今は本当にお前の胸がEカップあるのか、その証拠巨乳をこの目で見ないと俺は未来に進めない!」

「おっぱいを見なくても人は未来へ進めるよ!」



 確かに日々を無意味に消化するだけならその胸を見なくてもいいかもしれない。しかし、ここでおっぱいを見なきゃ後悔し続けたまま生きることに、真の意味では未来に進めなくなる。

 それに事実を確かめなければ北山さんのおっぱいのことが気になって話が頭に入ってこないだろう。それは相手に失礼だし、話をちゃんと聞いてもらえなかったことで相手を傷つけることになるかもしれない。

 要するに自分の未来と相手を思えばこそ僕は北山さんのおっぱいを見なければならない。

 すなわち、正義は僕にあり!


 故に——



「贅沢は言わない。一目、いや二目見るだけでいいんだ……グスン……」



 土下座続行(+すすり泣き)である。


 ここまですれば僕の誠意もきっと伝わるに違いない!



「すすり泣きを追加してもダメ―—というか何気に見る回数を増やさなかった⁉厚かましいよ村上君⁉」



 どうやら誠意は伝わらなかったようだ……口惜しい……。



「そんな、おっぱいを見て、あわよくば揉みしだこうとするくらいいいじゃないか! 減るもんじゃあるまいし!」

「減るよ、体の水分が下の口から!」

「そっちも興奮できるならウィンウィンだろ! 頼むから見せろよ揉ませろよゴラァー!」

「最早ただの最低セクハラ野郎だよ! あと執拗しつこいよ、いつまで土下座し続けるの!?」

「見せてくれるまでいつまでも」

「かなりグイグイ来るね、人付き合いが苦手なんじゃなかったの!?」

「おっぱいのためなら恥も外聞も、設定すらも捨ててやる!」

「必死だね! プライドはないの村上君!?」

「プライドを捨てることで生乳を拝めるのなら本望!」

「プライドを捨てても見せないよ! あと倫理感モラルまで捨てないで!」

「……?」

「なんでそんな、何言ってるのかわからないって顔ができるの!?」



 北山さんは一体何言っているんだろうか。

 僕が土下座してまで胸を見せてもらおうとしているのは北山さんの用件をしっかりと聞くため、すなわちモラルに基づいた行動だと言うのに。

 それなのに僕がモラルを捨てているだって? 全く、やれやれだぜ。



「とりあえずダメなものはダメだよ、見せません」

「待って下せェ姐御! 決して邪な動機とかじゃありやせん!」

「100パー邪な気がするんだけど、というかなぜその口調なの……。とにかく、動機はともかく行動が常識的にアウトだよ」



 人は何時だって卑怯だ、そうやっていつも詭弁で他人を騙そうとする。


 くそ、あと少しで見せてもらえそうなのに……その少しが果てしなく、遠い……!

 けどせっかく目の前に逸材隠れ巨乳(自称)が目の前にあるんだ。これで諦めたら男じゃない、おとこじゃねーよ!



「ハァ……ねぇ村上君、本来は立ち入り禁止の場所屋上にいるのばれちゃうからあまり大きな声を出さないで、いい加減にしないと……」

「陰湿な嫌がらせでもするのか? 残念だったな、僕はその程度じゃ恐れないし諦めない! そんなものは今まで何度も乗り越えてきた! 僕の不撓ふとう不屈ふくつの精神を舐めんじゃ──」



 純粋な気持ち殺意を込めた言葉というのはとても、怖かった。

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