第6話 緊急イベント発生

 放課後、学校の近く──歩いて3分くらい──にある神社に僕は来ていた。


 理由は簡単、北山さんから『放課後に神社で来て』っていうメッセージが来たからだ。


 ちなみに北山さんはまだ来てない。

 多分神崎さんと一緒にいるんだろう、一緒に教室を出ていくのを見かけたし。

 まぁ親友同士なんだし当然なんだろうけど。


 それにしても北山さんが来るまでどうしたものか。

 時間が経てば来てくれるだろうけど親友と遊ぶのが楽しくて遅くなるかもしれない、もしそうならしばらく時間潰ししないといけなくなる。


 ん〜……とりあえずソシャゲでもして待つか……。



「おまたせ修羅上君」

「ちょっと待て、そんな名前の人僕知らない」



 ソシャゲを始めようとしたところで通学バッグを持った北山さんがきた。

 本来ならここで気をきかせた言葉を言うべきだろうがあんまりな間違え方に僕はたまらずツッコミが先に出た。



「仮に僕のことを言っているならその間違い方はやめろ、それは某シリーズの怪異登場人物の芸風であり、僕の名前は村上だ」



 そんなかっこい名前だったならどれだけよかったかと思わなくはないけれども。

 たとえある程度のパロディが許される世の中なのだとしても安易すぎる引用パクリはダメだと思う。



「何言ってんのか分からないよ村上君、あと長い」

「クソ、これが無知ゆえの危なさってやつかッ」



 無知とはなんて厄介なんだ、平気な顔で禁忌危ないネタをぶっ込んできやがる。これならわざとパロディしてくれた方が幾分かマシだよ!

 これだと僕の方がおかしな奴みたいじゃないか!

 どうしよう、基本的に他人北山さんにどう思われようが気にならないけどコレツッコミが原因で変な奴扱いされるのは耐えられないッ!

 考えろ、考えるんだ村上! どうすれば不当な扱いを回避出来る、どうしたら──



「あ、この場合は『失礼噛みました』だったね。私ってばうっかりー」

「なーんだ、どうやら回避出来てたっぽい、よかった〜…………やっぱり確信犯じゃねーかコノヤロー!」

「いきなりキレてどうしたの、情緒不安定なの村上君」

「お陰様でなッ!」



 この日、僕は新たな教訓を得た。

 タチが悪いのは無知では無い、タチが悪いのはこの女北山さんである、という教訓を……。



「まぁいいや、これ以上この話を引き伸ばすのめんどくさいし。それよりも早かったね北山さん」

「ううん、そんことないよ。むしろ遅れてごめん、呼んだのはわたしの方なのに」

「別にいいよ。ってかそっちはよかったの、神崎さんと一緒じゃなくて?」



 女の子の交流って面倒くさそうだからもっと遅くなるかと思った。

 まぁ、僕としては時間を潰す必要がなくなったから別にいいんだけど……。



「確かに女子は恐くて面倒なものだけど大丈夫だよ、他の人とならともかく美空とはそんなことにならないから」

「ほぅ……、その心は?」

「私と美空は親友だからね」

「……即答だね、別に悪いってわけじゃないけど自分で言ってて恥ずかしくないの?」

「…………正直恥ずかしい」

「だろうね、見ればわかる」



 今の北山さんは『心の中では羞恥心が暴れ回ってるんだろうな……』と、話して間もない僕にもわかってしまえるくらい顔を赤くしてモジモジしていた。


 そんなに恥ずかしくなるなら言わなきゃ良かったのに微笑ましいというかなんというか……普通に可愛いじゃないか!

 あと、赤くなった顔を隠すために少し猫背の体勢にしながら体の前で指をモジモジするのもやめて、その体勢だと胸が強調されて、ヤバい……、乳トンの法則に屈しておっぱいに視線が引き寄せられてしま——。



「がんばれ理性、理性がんばれ!」

「いきなり叫びだしてどうしたの?」

「いやなに、ただ悟りを開いてだけだ」

「珍しい悟り方だね村上君⁉ なんで悟る必要あったの⁉」



 偉大なる乳トン先生性欲に打ち勝つためである。

 そして村上乳トン性欲に勝利した……とは恥ずかしすぎて流石に言えない。もしも『貴方様のおっぱいに目線が引き寄せられてしまうのをこらえる為に悟りを開きました』と言えるような正直者バカがいるなら会ってみたいものである。



「そんなことよりも他に話すこととかあるだろ、宮野たちのことで呼んだじゃないのか?」

「あぁ……うん、そういえばそうだったね」



 自然な話題変更で話が本題に移り変わっていくのを感じる。


 よっし、これで恥を晒さずに済むぞ──



「じゃあ外でこの話をするのもなんだし、村上君の家で話そうか。案内してね村上君」

「ねぇ、なんでそうなるのぅ?」



 厄介事を回避したと思ったらまた新たな厄介事があらわれやがった。



「え、ちょっ、待て。少し落ち着こう。えーと……」

「村上君が落ち着こうね、まず」

「そうだね、ありがたい指摘余計な一言、ありがとうッ」



 お陰様で少しだけ落ち着いた。



「はぁ……、確かに外でこんな他人の恋ついて話することに対して抵抗があるのは悪いと言うつもりはない。人に聞かれるのは避けたいし……けど、別にここでもいいだろ。人がほとんど来ないし、この神社」

「え〜、けど確実に誰にも話を聞かれないという点についていえば室内の方が確実だよ」

「で、でも僕の家ここから遠いんだよね~」

「けどこの前遅刻しかけた時に先生が村上君の家はこの近く、って言ってなかったかな?」

「ぐっ」



 あっさり嘘が見破られた。


 確かに2日前に遅刻しそうになった時に先生に『なんでお前は家が近いのにいつも遅刻しそうなんだ、そこの神社の近所だろ?』って聞かれた気がする……が、まさか聞かれていた上に覚えているとは思わなかった。


 それにしてもこんなにも悉く拒否を拒否されるとは……。

 さてどうしたものか。


 普段だったら誰かが家に来るぐらい──たとえ女子であっても──問題ない、女子が自分の家に訪れるということが落ち着かないけど問題ない。

 けど今日はダメだ、今日は昨日読みあさった本──ライトノベルやマンガ……官能小説にエロ本R18指定など──が散乱して散らかっている。とても人を呼べるような状況ではない、というか呼んだら僕の社会的に死ぬ。相手が女子なら尚更だ。

 なんとしてでも回避しなければ……!



「ちなみにこここの神社から最寄りの公園やファミレスは徒歩で30分くらいの距離だし私の家は駅5つくらい離れてるから村上君の家の方が近くない? それと私はどんなゴミ屋敷でも、たとえ2千冊のエロ本が散らかってても気にしないよ」

「逃げ道がことごとく潰されるッ」



 少しは気にして、主に僕の心境をッ!


 まずい、このままでは北山さんが僕の家に来てしまう。

 考えろ、考えるんだ……、どうすればこの危機を回避できるんだ、考え続けろッ。



「もう観念したら? さもないと……」

「いや、諦めるにはまだ早い──」

「何故だろう、その言葉にデジャブを感じる」



 村上は思考を放棄した。

 社会的な死より生物的な死の方が嫌なのである。


 ~緊急イベント発生・我が家に女子訪問~


 ざけんなァ〜……。

 僕は心の中でそう呟いた……怖くて声には出せなかった……。


 というか僕が北山さんに対して妥協する時は決まって脅迫された時なのは気の所為ではないと思う……というのは胸にしまっておこう。

 だって怖いもん。

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