第5話 これが僕の日常ではありません! ③

 宮野と神崎さんを恋人にするのを手伝って欲しい、それが北山さんの頼みだった。


 神崎かんざき 美空みそら。北山さんの親友。

 校内一の美少女、学年首席、スポーツ万能、おまけに人柄家柄ともに良し。

 まさに女性版宮野、その上位互換。

 校内での人気も男女ともに高く、その美貌や振る舞いから完璧超人、大和やまとなでしこ、女王様、聖女、お姉様などと呼ばれている。

 正真正銘スクールカーストの頂点。

 当然というかなんというか周りにはいつもいろんな人がいて……。



「え、無理だろ」



 仮に協力したとしても宮野のコミ力から考えて絶対にうまくいかないだろう。恋人になろうしても、恋人になれたとしても。

 そんな人混みの中に、重度のコミュ障である宮野を放り込んだらショック死しかねない。



「だよねぇ~」



 北山さんも昼休みでの会話からそのことについて同意見だったのだろう、苦笑いで同意していた。いや、昼休みに宮野と話す前から北山さんは分かっていた、だから——



「だから私は村上君に、宮野君の唯一の友人である君に頼もうと思ったんだよ」

「……なるほど」



 頼みの内容は少しだけ違ったけど僕を頼ってきた理由の方は予想通りのようだ。


 今まで僕に宮野とくっつくためにキューピット役を頼んできた人達と大して変わらない。

 違うのはせいぜい自分にではなく親友神崎さんに恋人を作ろうと行動していることくらいなものだ。


 なら答えはもう決まっている。



「だが断る」

「え……え⁉ 断るの早くないかな村上君⁉」



 北山さんは余程意外だったのかとても驚いた表情してた。具体的にどの程度かというとモノクロとガーンという効果音が似合いそうなくらい驚いた表情だ、マジで。


 いやー、それにしても本当にそんな表情ができる人がいるとは、わりと感慨深いものである。

 できるなら写真に収めたいくらいだ。


 パシャッ(←カメラアプリのシャッター音)



「だからといって写真を撮るのもどうかと思うし脳内メモリに保存するだけで我慢するか」

「やってる事と言ってる事がちぐはぐだよ村上君、なにふつうに写真撮ってんの⁉」

「え……あ、マジだ」

「……本当に欲望に負けて知らないうちに行動している人っているんだね」

「そう?」



 別にそんなつもりはないんだけどな……あと『そのうち痴漢とかしそう』とかボソッと聞こえた気がしたけど気のせいだな、スルーだ。


 それにしても驚いたり怒ったり呆れたり感情豊かな人だな、一緒にいて飽きないというかなんというか。

 ってか、今はとりあえず写真を削除しないと、え~と……。



「画像の加工ってんどうすればいいの」

「削除するつもりないよね村上君、私はもう諦めた……」



 北山さんは真っ白に燃え尽きた。



「はぁ……ねぇ、なんで協力してくれないの?」

「なんでって言われても」



 北山さんは一度ため息をつくとそんなことを言い出した。


 おっと、このタイミングでその話に戻すのか。

 せっかく話題をずらしたのに……ま、いっか。



「別にこれといった理由はないよ、ただ無意味なことをしたくないだけ」

「無意味なこと?」

「だってそうだろ。宮野と神崎さんを恋人にして僕になんの意味があるの」



 もしも宮野が神崎さんの事を好きなら仕方ないかなと思わなくはない。

 だが、そうなのかも分からないのにアイツの苦手なリア充空間を否応なく発揮してまう神崎さんとくっつけて一体なんの意味がある。

 僕には自分の友人に合わない環境を強要するような趣味はないのだ……自分に都合がいい場合を除いて。



「そこをなんとか、美空の想いを叶えてあげたいの!」

「だろうね」



 少ししか話してないから性格を完全に把握していないけど彼女は親友が望んでいないことをやる様な人間ではないだろう。



「だからといって僕が協力する理由にはならないけどな」

「胸だろうがなんだろうがを触らせてあげるから!」

「前向きに検討させて貰います!」




 ■ ■ ■




「北山とは一体どんな話をしていたのだ?」

「学校をより良くしましょう的な事だよ」

「なんだそれは?」



 僕達は体育館の隅で雑談しつつみんながバレーの試合をしているのを眺めていた。


 僕は北山さんの頼みを保留してから、後で返事するためにメッセージアプリのID を交換してそれから6限目の体育の授業に出ていた。

 流石に2時間も連続でサボるわけにはいかなし……。



「告白でもされたのか?」

「何言ってんのお前」



 とうとう頭沸いのかコイツ?



「何言ってんのって、女が男を人気のない場所に呼んで2人きりですることといえば告白か性行為くらいなものだろう」

「なるほど、それもそうか」



 確かに普通はその程度なものだろう。

 実際当たらずも遠からずと言った感じだ。あれも告白といえば確かに告白と言えるし。



「恋は苦手だが相談くらいなら乗るぞ」



 宮野はバレーの風景を眺めながら表情一つ変えずにそんなことを言ってきた。


 いや、かっこいいなコイツ!?


 宮野がモテるのはきっと、外見だけでなくこういう苦手なことでも困っている人に手をさりげなく差し伸べるそのぶっきらぼうな優しさ故なんだろう……男として悔しいなチクショー。


 まぁ、今はそれを置いといて宮野に聞いてみるのもアリかもしれない。屋上で話してたことはコイツにも関係ある話なんだし、悔しいけど。



「まぁ、そこまで言うならお言葉に甘えさせてもらおうかな」

「うむ! この神々に愛されし才能の権化、宮野 翔に頼るがいいっ!」



 やっぱあんまり悔しくないな。


 宮野に恋人や友人ができないのはきっと、この残念厨二ぽさがモテる要素のことごとく打ち消してしまって、むしろマイナスにしてしまっているせいだと思う。



「ん? 聞きづらいようなことなのか?」

「いや、んな事ぁないよ」



 実際そんな大したことじゃない。



「ただ好きな人っていんのかなと思っただけだよ?」

「……!? 一体何Woコ★♪$¥■◇!?」

「落ち着いてくれ宮野、驚くならせめて地球上の言語で頼む」



 なんてわかり易い反応をするんだ。いや何言ってんのかはわかんないけど……。


 それにしても、さっき恋についてではなくと言ってたからもしかしてと思ってたんだが本当に好きな人がいるとは……。



「おい、何ニヤニヤしてやがるんだお前?」

「気にするな、ただニヤつきたい気分なだけだよ」

「俺はイラつきたい気分になるな」

「イラつきを堪えろ」

「お前こそニヤつきを堪えろ」



 無理である。

 だって理屈とか抜きに自分の数少ない友人に好きな人がいると思うとついニヤついてしまうんだよなー。


 んー、宮野が好きになるような人か……一体どんな人だろ?



「好きな人って神崎さんだったりして」



 なーんてね。

 もしそうだったら宮野と神崎さん──神崎さんは話したことすらないから正直どうでもいいけど──の想いと北山さんの頼みを叶えることもできて万々歳なんだけど、流石にそんなうまい話あるわけ……。



「…………」



 とうとう地球外言語で驚くことすら出来なくなったのか、宮野の顔は真っ赤に染っていた。

 本当にわかり易いなコイツ。


 そうか、宮野は神崎さんのことが好きなのか……。



「……ん? 今度はどうした、また思い悩んだ顔をして」

「いーや、なんでもねーよ。ちょっと便所にいってくる」

「おう、さっさと行ってこい」

「ハイハイ。あ、せんせーいッ」



 僕は先生の許可をもらってから体育館の外に出た後トイレに行くふりして男子更衣室に向かった。


 昼休み──をすぎて5限目になってしまっていたが──に北山さんさんに頼まれたとき僕は保留した。

 これは僕の日常ではないだとか自分には関係ないとか言い訳して、行動しようと思わなかった。


 けど言い訳はもうやめよう。


 確かにこれは僕の日常ではないかもしれない。

 けど友達の想いを成就させるために一肌脱いだっていいだろう。

 地味だけど話すと面白くて親友ために全力な女の子に協力するのだってアリなはずだ。

 ついでに話したことないほぼ赤の他人ために動くのも問題ないに決まってる。

 自分の欲望のためなら尚更だ。


 更衣室に戻った後、部屋の隅に置いてあった自分のバッグからスマホを取り出してメッセージアプリのトーク画面から北山さんに短いメッセージを送る。



『協力させてくれ』



 しつこいかもしれないけど、これは僕の日常ではない。

 それでも僕は自分のやりたいことをやろう。

 それもきっとおかしな事ではないはずだ。

 これも青春の1ページなんだから。


 さぁ、アイツらの青春の手伝いをはじめよう。




 北山さんのおっぱいを触る僕の青春のために!

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