第7話 僕の家ではじめての感謝
「へぇ〜ここが村上君の家か、普通だね」
「そりゃ普通の家だしねウチ」
まぁ、むしろ少しみすぼらしいくらいかもだけど……。
僕が脅されたあと僕達は学校から5分、神社から歩いて2分くらいの所にある僕の家に来た。
僕の家はやや小さめの、ありふれた二階建ての一軒家構造になっている。
「はぁ……、」
玄関の前で僕は生まれ育った我が家を見上げる。
僕の家、というより僕の部屋は今女子に見られたら困るような有様になっている。可能なら今からでも北山さんを追い返したいくらいだが……。
「ほら、早く鍵を開けてよ」
がちゃッ。(←カッターやホッチキスを取り出す音)
「おやおや、これはなにかな?」
「あぁ
「あ、答えていただかなくて結構で~す」
その行動の意味を察したくない。
……予想はついてしまうが、おっかないから真相を聞きたくない。
「電車の中って物騒でね」
「僕の都合は知ったこっちゃねぇということですね。オーケー、続きをどうぞッ」
「私や美空が痴漢されそうになった時とかに
「ちょっと鍵を開けるんで黙ってお待ちくださいお客様!」
過剰防衛だとか傷害罪なんて余計なことは口にせず玄関の鍵穴に鍵を差し込む。
下手なツッコミや不屈の心による羞恥心などよりも妥協と諦めの自己保身の方が最優先なのである。
「それらを逆に奪われて美空の分まで辱められる妄想をしたり~……」
「黙って待ってろって言ったのがわからなかったのかな⁉」
もう我慢できないッ!
こらえきれず叫んでしまう。もしもご近所様に聞かれたら僕まで変な目で見られちゃうからそういうこと言うのマジでやめてほしい。
最低でもあと二年、高校を卒業するまでこの家に住まなきゃいけないのに近所の人達からもしも
ガチャッ。
ぎゃあぎゃあ騒ぎながらようやく玄関の鍵が開らく。……おかしい、鍵を開けるだけでこんなに時間と体力を消費するものだっけ。
ま、いいけど。
「鍵開いた?」
「うん。んじゃ、上がって」
「お邪魔します、」
「僕の部屋は二階だから、ついてきて」
まぁ、案内するほど大きくないけどねこの家。
玄関で靴を脱いだ後僕たちは階段を上って二階に行く。階段を上って左に曲がったところにある部屋が僕の部屋だ。
「はぁ」
部屋の前についた途端ため息がこぼれる。
これからあの部屋を女子に見られるという責め苦を思うと気が重い……けど、
「どうしたの?」
カチカチ(←カッターナイフの刃を出す音)
「ううん何でもないよ」
ダメだ逃げられない!
不思議そうな顔で首をかしげる仕草と何気に握られたカッターナイフの組み合わせ超怖ェー。
僕はわずかな希望すらも諦めて部屋の戸を開ける。
部屋のドアを開けると女子に見られたら困るような光景が
「——あれ、」
思わず声がこぼれる。
なんか記憶にある僕の部屋となんか違っていた。
具体的に言うと……。
「思ったよりも片付いてるんだね」
僕の部屋の中を見た北山さんが感想を口にする。
確かに北山さんの言う通り片付いているんだけど……あれ、おかしいなラノベとかエロ本とか片づけてなかったと思うんだけど……。
「ん? なんだろコレ、書き置き……?」
なんとなく本棚の方を見てみると家を出るときにはなかった書き置きと思われる紙を見つけた。
手に取って読んでみる。
どれどれ……。
『せめて見られちゃマズいものくらい隠しとけ
兄より』
書き置きにはそう書いてあった。
……ふむふむ。
「ありがとう兄貴イィィィィィィィッ!!!」
「急に泣き叫び出して一体どうしたの村上君⁉」
圧倒的感謝っ……!
僕は床に手をつき全力で感謝する。
僕には兄が1人いる。
今は県外の大学に進学しておりソッチに住んでいるのだが、たまにだが唐突に戻ってくることがあり、どうやら今日コッチに戻ってきていたらしい。
普段の僕ならそのことを不快に感じていただろう。
我が
僕のものをすぐとったり割とガチで不快な嫌がらせをしてくるし、それを反省するどころかちっとも悪びれない。挙句の果てに貸したお金をなかなか返さない。
本来なら勝手に部屋に入って僕の物に触れたことについて怒っていたと思う。
だが許そう……。
むしろ生まれて初めてお兄ちゃんに感謝しよう。まるでキリストに怪我を治してもらった信徒の如く。
貴方は僕を救ったのだ、誇りに思うがよい。
「大丈夫なの村上君?」
床に伏していた僕を心配してくれたのか心配そうな顔した北山さんが体をかがめて聞いてきた。
「ありがとう、大丈夫」
心配してくれたことが嬉しくて思わず笑顔になるのを自覚しながら返事を返す。
あぁ世界はなんて素晴らしいんだ。
今の僕には第一ボタンを外したまま体をかがめたせいで
「んじゃ、目の保養はこのくらいにしておくか」
「ええと、一体何の話かな?」
兄への感謝もほどほどにして立ち上がる。
流石にずっと同じ体勢ってのも疲れるしね。
それに制服も着替えたいし。家でまで制服で過ごすの嫌なんだよね僕、家に帰ったらすぐに着替えたい。
「ちょっと一階で部屋着に着替えてくるわ。ついでに飲み物も持ってくるけど何かいる? ウチにあるのは緑茶かコーヒーぐらいだけど」
カバンを部屋の隅に放りながら北山さんに飲み物がいるか聞いてみる。
牛乳はあったかな? まだ残ってたか、あと賞味期限も大丈夫か覚えてないけど。
「うーん、じゃあ……お茶でお願い」
「オーケー、5分くらいこの部屋で待ってて」
「わかった〜」
僕は一階でジャージに着替えたあとリビングに移動し冷蔵庫から緑茶のペットボトルを、食器棚からコップをふたつ取り出す。
「あれ、そういえば……」
どこに僕の
僕は自分と北山さんの分の緑茶を注ぎながらお兄ちゃんが片づけてくれた物の
全く、片づけてくれたのはありがたいけど一体どこに片づけたのかも書き置きに書いておいてほしかった。気配りが足りないというか報連相ができてないんだよなァ、帰ってくるのも急だし……。というか、勝手に部屋に入るなよ。
ついさっき人生で初めてした兄への感謝もどこえやら、悪口がスラスラと思い浮かぶ。
やはりたった一度の善行よりも普段の行いの方がものを言うらしい。
「……ま、いっか」
助けられたのは事実だし。
兄への不満を切り上げてコップと……ついでにどら焼きも2つと茶菓子を持って自分の部屋に帰る。
「フフフーン、フーン♪」
部屋の前に戻ってきた。
恥をかかずに済んだおかげだろうか足取りが軽く感じた。
「待たせてごめん、どら焼き食う?」
謝りつつ、ついでにどら焼きを食うか尋ねながら部屋に入る。
口に合えばいいんだけど……。
『あは~ん♡ いいわ、もっとぉ~♡』
「ハァハァ、村上君の、男の人のにおいに包まれてると思うと、ハァハァ……」
「……」
思考が停止した。
部屋に戻るとテレビで片づけられていたはずの
……ふむ。
「意味がわからないッ!!!」
頑張ったけど理解できなかった。だが結論は出しておこう。
北山さんは、いや北山さんこそが
5分の間に一体何があったんだ⁉
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