第8話 女子との語らい ①

「あれ、もう戻ってきたの村上君」

「なんでこの状況でオ●ニーを見られて平然としていられるんだ……ッ⁉」

「いや恥ずかしいからね、一応」



 普通は他人の家、他人の部屋で自慰行為をしているところを部屋の主に見られたら気まずくなるもんじゃないの!? ……え、ここは僕の部屋で合ってるよね?


 なんか不安になってきた。



「どうしたの、大丈夫?」



 北山さんは少し心配そうに聞いてきた。

 今日何度目だろうか北山さんに心配してもらったのは。北山さんが原因じゃなかったらその優しさがそのまま心に染みたことだろう。



「別に問題ないよ。それよりも他人ヒトの部屋で何しているの?」



 僕は北山さんの問いかけに対して自分が思ったことをそのまま言葉にした。

 それは希望を込めた言葉だった。


 きっと今見たのは気のせいに違いない、僕は北山さんを信じて——



「なにをってAVと布団をオカズにしてオナ……自家発電してたんだけど」

「言い直しても意味変わってないからッ、なんで少しも悪びれてないの⁉」



 希望はあっけなく砕かれた。

 頭を抱える。


 あぁ、分かってたとも! 気のせいや見間違い、ましてや僕なんかじゃ想像も及ばない未知で崇高な行いなんかじゃないってことぐらい分かっていたさ!

 信じてなんていなかったさ! 北山さんは他人ヒトの部屋でそんなこと自家発電をするような人じゃない、なんて思ってなんかいなかったさ!


 人は自分の見て、感じたことを真実だと決めつけるものだ。何か言われても多分心のどこかで疑ってしまっていただろう。

 事実は隠すことはできてもなかったことにはできない。北山さんが完璧に誤魔化し、僕がどんなに目をそらしても事実をなかったことになんてできるわけがない。


 それでも——



「それでも理解したくなんてなかったんだ、信じたかったんだよォーッ‼」

「原因は私だろうからあんま言いたくないけどこれオ●ニーの話だよね、なんでこんなにシリアスな感じになってるの!? 頭大丈夫!?」



 人様の家で自家発電をしてた人には言われたくない。



「ねぇ、よく聞いて村上君」

「ん……? 別にいいけど……」



 北山さんが真面目な声で言うので自分も話を聴く体制をとる。

 一体なんだろ?



「これは仕方ないことなんだよ」

「そうなの?」



 そんな要素はないと思うけど。



「まず他人の部屋に来た時にどんな物があるのか、どんなお宝があるのか確認するのは仕方ないことって言えるのね」

「まぁ、分からなくはない、かな……」



 確かに初めて訪れる場所がどんな環境なのか真っ先に気になるよね……同性の友人や恋人同士の間柄の人でもないのに許可なくそういうことお宝探索するのはいかがなものかと思うけどネ。



「異性の部屋とか布団ってなんか意識しちゃうよね」

「そうだネ。業腹だけどわからなくはないよ」



 確かに異性の住んでいる空間とかその布団で人が寝ていると思うと妙に緊張するよね、それはわかる。

 だからといって『よし匂いをごう!』とはならないけどね。



「ほら、ここまで来たら結論は一つでしょ」

「というと?」

「ここまでお膳立てオカズが揃っておいてヤらない理由はないよね」

「ん〜、その理屈は分からない」

「たとえ他人の部屋であっても……いや、むしろ唆るよねこのシュチュエーション他人の家で自家発電。ドキドキして──」

「はーい、一旦落ち着こうねー。一人で熱くならないで〜」



 当然みたいに言わないでもらいたい、変態じゃあるまいしソレ変態心理に共感できないんだよ!? ……あ、涙出てきた。もしかしたら頭が処理できる限界を超えたせいなのかもしれない。

 ここまでいくと襲う気も失せてしまう。



「まぁいいや、それよりもどうやって宮野と神崎さんを恋人関係にする算段について聞かせてもらおうか」



 こんなことについて長々と話すのは時間の無駄だ。さっさと本題に入らせてもらおう。



「それもそうだね……あ、どら焼き貰うね」

「どうぞ。煎餅せんべいとかもあるよ、よかったら」

「なんか年寄りみたいなチョイスだね」

「ほっとけ、ちゃんと若者らしくチョコとかクッキーもあらァ」

「あ、ホントだ」

「そういうわけだから僕を年寄りっぽいキャラ扱いするんじゃありません!まだそんな歳じゃねーんだよ!」

「う、うん分かった……やけに否定したがるね、前に何があったの?」

「……いや、なんにも」



 こんな事でムキになったことを恥ずかしい。

 というか──



「そんなことはどうでもいいから。ほら、お菓子食いながらでいいからはやく話し合いを始めようよ。……遊ぶためにこの場を設けたわけじゃないんだろ」

「……そうだね」




 僕が真面目に問いかけると北山さんもそれに応えるかのように真剣な声音に同意してくれた。



「それで、これからのことだけど──」

「…………(ゴクッ)」



 なぜか部屋全体に妙な緊張感が張り詰める。


 一体何をさせられるのかな。

 これがアニメや漫画の世界に住まう今の僕と似た状況に立たされてる友人キャラ達はどんなことをしていたっけ?

 そんなことが頭をよぎる。


 自分でこの話題にしといてなんだが、この場の空気とこれから何をさせられるのかという不安に気圧されて言葉を発せられそうにない。


 僕は一体何を──



「どうしたらいいと思う?」

「え?」



 頭の中が真っ白になった。



「え、考えてきたんじゃないの?」

「ううん、そんなわけが無い」



 少し大袈裟かもしれないけど、北山さんの返答に思わずズッコケそうになった。



「何をそんなに驚いているの、そのために村上君の家に来たんでしょ」

「ごめんそのひとつ先の何かをする段階になっているものだとばっかり思ってた」

「協力してくれる以上しっかりしてくれくれないと困るよ」

「ぐぅ」



 ぐぅのねしか出なかった。


 それにしても、まさかまだそのひとつ前の何をするのかを考える段階だったとは……どうやら見積もりが甘かったらしい。

 多分僕のことだから無意識下に『面倒なことは全て他人がなんとかしてくれる』の精神で考えることを放棄していたんだろ。

 ふむ、実に僕らしい。



「まったく、やれやれだぜ」

「? 何がやれやれなの?」

「なんでもないよ。それよりも今はこれからどうするかだろ」

「まぁ、確かにそうだねぇ。で、どうしたらいいと思うかね村上君?」

「そうですなァ……」



 少し真面目に思考してみる。

 どうすればあの二人を恋仲にできるんだろう?

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