~北山雪菜の視点~まだ知らぬ嫉妬

「──だから村上はアニメなどを参考にした、台本マニュアル通りの対応しかできない」



 私はそれを聞いていた。

 最初の部分から聞いていたわけではない。

 あくまで途中から、なんでその話になったのか要領を得ないままに耳を傾けていた。


 店長のお叱りから解放された私は、店の外で村上君がさっき話しかけられていた女性と話しているのを見た。

 一体どんな話をしているのか何故か無性に気になって、こっそり聞くことにした。

 そこで知ってしまった。村上君が誰にも、自分自身にすら気づかないようにしていた内面、その一面を。


 正直合点がいったというのが私の本音。

 冷静に考えればわかる話だった。村上君のような、クラスに一人はいるような静かな存在が、おっぱいのために土下座したりすることは違和感があった。

 そりゃフィクションの中の人物たちを参考にしてたら違和感を感じて当然だと思う。



「ふふっ」



 そこまで理解して思わず笑いがこぼれる。

 今の話を聞いて私は嬉しさを感じていた。


 あの女性は、そして多分村上君も誤解をしている。

 確かに村上君は台本マニュアル通りの対応しかできないかもしれない。けどそれは何も感じないからとか、薄情だからとか、そんなんじゃない。

 村上君は日常生活において自堕落に過ごしているみたいだけど、その心根は真面目だ。

 だから、相手が誰であろうと真剣に向き合おうとする。そして、どうするべきか頭をフル回転して、から回ってその結果、結局台本マニュアル通りの対応に行き着いてしまう。

 なんてバカなんだろう。

 けれどそれを思うと心が温まる。そのから回りは、真摯に向き合おうとしてくれている証なんだから。

 そして何より嬉しいのは、村上君が少し大げさで、どこかおかしな対応を私にするというとことは、その真摯さを私にも向けてくれているということに他ならないことだ。

 ……ああ、本当に嬉しいなぁ。

 だからだかな。



「──ボクら同族だろ?」



 女性の発したその言葉に、心の底から怒りが湧いた。

 あの女性が村上君にとってどんな相手なのか、昔二人に何があったのかを私は知らない。

 けど、金の繋がりでしか人と繋がれないような人と村上君を一緒にしないで欲しいと思った。

 村上君のことを見誤ってるくせに、少なくても今の村上君のことをろくに知らないくせに生意気だと感じた。

 そんな人と同族だと、村上君に認めてほしくなかった。

 なにより──私のほうが彼のことを知っていると、私こそが村上君の同類だと叫びたかった。


 この憤怒いかりは嫉妬からくるものというのはすぐにわかった。

 けど何故こんなにも嫉妬しているのか、私はそれをまだ知らない。

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