~宮野翔の視点~お出かけに向けて

 カラオケから帰宅して一時間経った。

 自室のベッドの上で俺は頭を抱えていた。俺の頭の中はいま、大量の疑問符で埋め尽くされている。


 来週の土曜日に神崎とふたりで遊びにいく約束をした。


 それはとても嬉しかった。

 なんせ意中の相手とふたりきりのお出かけ──いわゆるデート、とまではいかなくともそれに近い約束をしたのだ。

 そりゃテンションも上がるし、喜びのあまり行動が変になってしまう。

 先程も帰宅後に早々、部屋の隅に置いてある小学生のころ使っていたサンドバッグにオラオララッシュを決めてしまい、思わずお釈迦にしてしまった。


 だが幸せな気分は長続きしなかった。



「服はいったいどんな物を着ていけばいいんだ……?」



 夢から現実に引き戻されるように冷静になってから現在、俺は悩んでいた。

 あの容姿端麗かつ完璧超人、しかも社長令嬢の神崎の横に並び立つのに相応しい身だしなみっなんだ!?

 全てにおいて凡人どもよりも優れている俺といえど、無理難題を押し付けられた気分だ。

 だがせっかくのデート、無駄にするわけにはいかない。


 部屋の押し入れの扉を開ける。押し入れから四段造りのタンスが姿をあらわす。

 俺の衣類は全てこのタンスにしまっており、一段目によそ行きの衣服、二段目は部屋着、三段目には俺の趣味全開の衣装を、そして四段目に制服の類いが収納されている。



「我ながらデートに相応しい衣服などないだろうが念のため確認しておくか……」



 部屋着を収納している二段目以外を確認することにする。

 まず一段目を確認。


・無地のシャツ

・デニムズボン

・パーカーシャツ


 悪くないラインナップだ。俺なら問題なく似合うだろう。

 前に村上と出かけた時『シンプルに似合う』と言われたことを踏まえて考えると、他者から見ても問題なく似合っていただろうと推察される。

 だが、



「味気ないな……」



 平時ならともかく、神崎と出かけることを考えるとこの程度の衣服ではあまりにもシンプルすぎる。



「残念だが却下だな」



 というわけで部屋着を収納している二段目をすっ飛ばし三段目、オープン。


・魔王の衣装(通販)

・ディオの衣装(改造済み)

・英雄王の鎧(自作)

・混沌をもたらす闇の衣(負のオーラを放ってる)


 これはいい線いってるんじゃないだろうか、そう思えるほどに良い選択肢の数々だ。

 どれを着てもカッコイイに違いないし、神崎の隣に立っても見劣りしない自信がある。



「けど時と場所と場合にそぐわねーっ!」



 非常に残念だ。

 コレもアレもダメとなると、いよいよもってもう制服で行くぐらいしか選択肢が残っていない。

 だが、これでよかったかもしれない。

 やはりTPOからズレているかもしれないが、下手に質素な服や着飾った服装をするよりは制服のほうがまだ幾分かマシかもしれない。

 そう思い開けた四段目。


・ベビー服(お母さんのオススメ☆)

・変態仮面に変身するに必要な下着類(お父さんのイチオシ☆)


 ……おかしい、制服の類いが見当たらない。



「息子の教育方針それでいいのか親父、お袋ーーーーー!!!」



 あるのは両親(の頭の病気)に対する疑いだけだった。本格的にヤバいかもしれない。

 アンタらは俺をどうしたいんだ?



「まったく、馬鹿もほどほどにしやがれ──」



・『野生のナースから剥ぎ取ってまいりました』と書かれたメモ

・争った形跡が見られるナース服(まだ生暖かい)


 ────…………。



ヘイもしもしポリスメン警察ですか! 至急パトカーを!」



 正義の怒りは悪を許さない。

 難しいことは後回しにして事件(かもしれない事案)の解決を図ることにした。


 ちなみに服に関しては後日、我が友の善意によりアドバイス及び金を工面してもらうことで解決した。

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