金魚

 吾輩は金魚である。名前はないというにはもう長く生きてい過ぎている。

 世に人種はいくつもあれど、二つに分けるとするならそれは金魚と水だ。

 水は常にそこにあっていかようにも形を変え、社会を形成していく。だが金魚は水にはなれない。金魚は自らを金魚という形にしてしまった哀れな人種だ。

 金魚はきらびやかである。水から愛され、自らも愛している。だが金魚は金魚という形を得てしまったがために水のように形を変えることができない。ただ自分が泳ぎ回れる範囲を泳ぎ、きらびやかなその姿を見せるだけだ。

 そしてこの世界には空気がない。なんせ水と金魚しかいないのだ。水は水として存在し続けることができるが、金魚となったものは空気を必要としてあがく。しかしこの世界には空気がない。金魚はただきらびやかな自分を愛でて愛でられ窒息するのである。

 吾輩は金魚である。酸素はない。

 窒息するまでをきらびやかに泳ぐ。ただそれだけの存在である。

 吾輩は金魚である。いつかただ水の中に浮かぶ、成れの果てになる存在である。

 吾輩は、金魚でしかない。

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