煙のない世界
私は甘いものを普段食べません。
そのせいかはわからないんですが、年に数回急に甘いものが食べたくなる時があります。
病院帰りの途中、路上でいい天気だと思った瞬間急に甘いものが食べたくなった私は近所のカフェへと足を向けたのです。
そこは線路の高架下にある店で、白髭の爺さんがマスターをしている店です。店の扉に髭の爺さんの顔が書いてあるので髭は店のトレードマークなのかもしれません。
店の前まで歩いてくると、入り口の傍に普段は見ないボードが立っていました。
「4月から店内禁煙となります。喫煙目的のお客様にはご迷惑をおかけします」
ボードに書いてある文字を読んで、ああ、そういえばもう4月から法改正されるんだっけなあ、と思ったのです。
あんまりニュースなどで取り上げられませんが、今年の4月から受動喫煙防止のための健康増進法の改正が施行されます。
改正の内容は4月から屋内は原則全面禁煙というものです。これは飲食店だけでなく、すべての屋内(家庭内ではない施設はすべて)が対象です。まあ、一番この改正で影響を受けると思われるのは飲食店なんですが。
で、その一番影響を受けると思われる飲食店ですが、一応喫煙可能な店舗の設置は可能です。ただし、そのためには喫煙と禁煙の部屋がちゃんとわかれていることが条件であり、喫煙可能な部屋では飲食の提供が認められていません。
そう、喫煙スペースは本当に喫煙するためだけの部屋でなければならないのです。
一応これも例外があって、現在の時点で喫煙可能な飲食店についてはそのまま喫煙可能で飲食の提供もOKという店のままでいることができます。ただ、残念なことにこれは完全な例外ではなく、『経過措置』とされています。つまり将来的にはすべての飲食店が原則喫煙不可能であり、喫煙と飲食を同時に可能とする施設は無くさなければならないということです。
ところで、私は飲食経営者ではありません。喫煙者ではありますが日常的に喫煙している人間でもないです。周囲が喫煙していればその輪に加わってスムーズにコミュニケーションできるようにと煙草に火をつける。煙草がなくなればそれはそれで問題が出るわけではない。そんな人間です。そんな人間ではありますが、喫煙可能な飲食店が無くなることは賛同できない、そう思っています。
何故そう思うのか、自分でもこれはちょっと考えないとわからないところがありました。何故だかわからないけど嫌な気分がする。そういうもやもやした感じ。なので考えてまとめてみたところ、たぶん『煙草の存在の可否』について何かを思っているわけではなく、『この受動喫煙を防止する法案の存在』について気持ち悪いのだと思いました。
煙草があろうがなかろうが、それは私には大きく関係はしないことです。皆吸わないから健康ですというのはちょっと気持ち悪いですが、私個人としては煙草が無くなっても害はないし、あればそれはコミュニケーションツールとして使えるのでそれも良いわけです。
ただ、『煙草は他人の健康を害するから吸えなくなるよう法案を作ろう』というのはすごく気持ち悪く感じます。
煙草はそもそも健康に悪いものです。世間一般にそう言われており、実際に体に悪いと検証もされています。ですがこの煙草を吸うか吸わないかはそれを分かった上での個人の自由です。そしてそれと同じく、煙草が嫌いな人間に配慮するかどうかも個人の判断にかかっているものだと思います。
「銃が人を殺すのではない。人が人を殺すのだ」
こんな有名な言葉がありますが、煙草もそれと同じではないでしょうか。他人に配慮して煙草を楽しめる人間が少ない。そういう人間を無くすのは難しいから煙草を吸えなくしよう。何となくそう言われているような気がします。
本来なら喫煙者が主導で他人に配慮した煙草の楽しみ方を啓蒙するのが正しい気がします。そしてそれができない現状だからこの法案が作られるという喫煙者の自業自得であることもわかります。ただ、それでも「煙草を目の前から無くせば問題にならない」という考え方は賛同できません。煙草を邪魔に思うなら喫煙者への非喫煙者による訴えとお互いの話し合い、そしてその話の落としどころを決めるという交渉の作業があるべきです。この法案には喫煙者と非喫煙者という当該者たちの意見が見えてこないのです。両者の意見が見えるちゃんと話し合った末の合意による法案であればここまで一方的なものにはならないはずです。この状態から私は一方的に無関係な人間が都合で作った法案に見えてしまっているわけです。たぶん私が気持ち悪いのはこれです。
考えてみてください。何も知らない誰かが勝手に作った一方的な法案で迷惑を被るのは法案に口出しできなかった白髭の爺さんたちです。言葉にすると物凄い圧政のような感覚を受けます。
煙草は確かに健康に害をもたらします。ですが必要なことをすっ飛ばして勝手に決めつけることがあってはならない。そしてそれによって害を受ける人間が出てしまうこともあってはならない。
私は強くそう思うのです。
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