22

夜道を、坪内さんの車が止まっている駐車場に向かって二人並んで歩く。


「あの、迎えに来ていただいてありがとうございます。」

「いや、悪かったな邪魔して。」


お礼を言うと、謝られた。

坪内さんはばつが悪そうに、髪を掻きあげる。


「秋山が家にいないのが落ち着かなくて、電話してしまった。」

「そうだ、何で私のスマホに坪内さんの番号登録されているんですか?」


私が疑問を口にすると、坪内さんはいたずらっぽく目を細めた。

ああ、久しぶりに見たよ、この腹黒そうな目。

何をしたんだ、何を。


「秋山がスマホ持ったまま寝てるから。勝手に拝借して登録しといた。」


な、なんですと!

私がソファーで眠りこけてしまったばっかりに、勝手にスマホを触られていたなんて。


「めっ、メールとか見てないですよね?」

「さて、それはどうかなー?」


奈穂子とのやりとりはヤバすぎて見せられない。

いや、その他もできれば見ないでほしい。


「やめてくださいよ!」


抗議の声をあげると、坪内さんは可笑しそうに笑う。


「はいはい、見てないよ。お前の可愛い寝顔なら俺のスマホに入ってるし。」

「なっ!!!」


なんだってぇぇぇー!

私の寝顔写真だと?!

何を言ってるんだ、この人は。

冗談はそのイケメン顔だけにしてくれ。


坪内さんは、自分のスマホのアルバムデータを私に見せてくる。

そこには、ソファーでぐっすり眠りこけてる私がいた。


「ひぃぃぃぃっ!」


声にならない悲鳴が夜道を駆け抜けた。


いやもう、ほんと、ありえないでしょ。


「いやー消してください。」

「ははは!可愛いからいいだろ。」


自慢げに見せてくるなよ。


「誰かに見られたら困ります。」

「誰にも見せねーよ。」


絶対消してほしくて、坪内さんに絡み付いてスマホを奪い取ろうとする私。

坪内さんはその腕をぐっと掴んで動きを止めると、


「秋山の寝顔は俺だけのものだ。」


と耳元で囁やいた。


くそっ、このイケメン王子め。

どこまでも私をときめかせる。


「明日、不動産屋さんに行こうと思ってたんですけど、やっぱりやめます。」


私の言葉に、坪内さんは真剣な目になる。

つかまれたままの腕に、力が入るのがわかった。

私は一旦深呼吸をしてから、坪内さんの目を見て言う。


「もうちょっと、坪内さんちにお世話になっていいですか?」


坪内さんは満面の王子様スマイルで、


「いらっしゃいませ、お姫様。」


と言った。


そんな、歯の浮くような台詞言わないでよ。

悔しいけど、ときめいてしまったじゃないか。


悔しさと嬉しさと恥ずかしさでどうにもならなくて、その日私は初めて坪内さんにわがままを言って甘えた。


さっき食べ損ねた〆のデザート。

その代わりとして、帰り道のコンビニでバニラアイスを買ってもらった。


わがままを言われた方なのに、なぜだか坪内さんは上機嫌だった。

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