07
前回の議事録作成を頑張ってしまったせいか、坪内さんは私をことごとく会議に付き合わせるようになった。
議事録だけでなく仕様書の作成やシステムの改修まで、手広く仕事を振ってくる。
もちろん、いきなりそんな高度なことはできないのでできる範囲から一歩ずつだ。
仕事を教えること、仕事を覚えることはとても時間がかかる。
どうやら坪内さんは、本気で私を育てようとしているらしい。
それならそうでとことんやってやりますよ。
だって私は一人で生きていくんだから。
キャリアウーマンになって会社でなくてはならない存在になる。
このご時世、社員でもクビになることがあるからね。
それにこんな勉強できる機会滅多にないし。
課長も、私がやってみたいと手を挙げればやらせてくれる。
やっぱり優しい。
坪内さんも、口悪く罵りながらもちゃんと私の仕事を見てくれるし与えてくれる。
もしかして上司にすごく恵まれているのかもしれない。
おかげで坪内さんとランチをする機会も増えた。
毎回律儀に奢ってくれようとするけど、それはさすがに断っている。
気持ちは嬉しいんだけどね。
借りを作りたくないし、そこまでされると餌付けされてるみたいだもん。
なのでちゃんと自分で払う。
新しいお店を坪内さんと開拓するのも楽しくなってきた。
坪内さんはイケメン王子様だから、おしゃれなお店が合うよなぁなんて思ってたけど、今日はおしゃれとは無縁な感じの小さなラーメン屋さんでランチだ。
運ばれてきたラーメンをズルズルとすする。
イケメンはラーメンを食べてもイケメンで笑えた。
「何だよ?」
笑った私を見て、坪内さんは怪訝な顔をする。
「坪内さん、ラーメンも似合うなあと思って。」
「はあ?」
私の言葉に、訳がわからないといった顔をする。
「だって坪内さん、社内で王子様って言われてるんですよ。王子様とラーメンって結び付かないのに、似合うんだもん。反則ですよ。」
「王子様ねぇ。何を思ってそんなこと言うんだか。」
坪内さんは心底興味無さそうに、呆れた表情でラーメンを食べる。
「もしかして王子様の自覚無しですか?」
「お前も俺を王子様だと思うの?」
「うーん、見た目は王子様みたいですけど、中身は違いますからねえ。腹黒王子ってとこですかね?」
「てめっ、上司に向かってよくそんなこと言えたな。」
思わず本音が出てしまって、しまったと口元を押さえたが、当の坪内さんはお腹を抱えて大笑いをしている。
「秋山のそういうとこ好きだわー。」
笑顔でさらりと言うので、一瞬聞き逃したかと思ったけど…。
好き?
何が?
そういうとこ?
どういうとこ?
私にはさっぱりわからなかったけど、その日坪内さんは何故か上機嫌だった。
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