七章 ◆俺のこと惚れ直しただろ?

26

いつの間にか寝てしまっていたらしい。

どれくらい寝たんだろう?

枕元にポカリが置かれている。

ボーッとする頭でポカリを飲んでいると、扉が開いて坪内さんが入ってきた。


「ちょっとは寝れたか?」


そう言って、私のおでこに大きな手をあててくる。


「まだ熱いな。」


言いながら、私の体をゆっくりと寝かす。

おもむろに目の上に濡れタオルが置かれた。

えっと、おでこじゃなくて?

と思ったけど、


「ちゃんと目、冷やしとけよ。」


と笑いを含んだ優しい声が聞こえた。


そうだった、さっき泣いたんだった。

ていうか、泣いたのバレてますね。

あー、やっちまったわ。

私ったら。


だけど坪内さんはそれ以上何も言わない。


「迷惑かけてごめんなさい。」


目の上にタオルをのせたまま、私は言う。

坪内さんがどんな顔をしているのか、見るのが怖くてタオルの端をぎゅっと握った。


「アイス食べるか?」


なんでもないように、坪内さんは言う。

気にしてないという態度に、私はまた目頭がじわっとなった。

答えないでいると、「ハーゲンダッツのほうじ茶ラテだけど」という呟きが聞こえる。

その言葉に、私は飛び起きた。


「食べます!」


だってそれ、期間限定で気になってたの。

ハーゲンダッツ高いから買うの躊躇ってたし。

まさかそんな貴重なものを買ってきてくれるなんて。

目をキラキラさせているであろう私を見て、坪内さんは楽しそうに笑った。


だけど私は今、困惑している。


とっても食べたかったアイスクリームで、買ってきてもらえて嬉しいんだけど、坪内さんは私にスプーンを渡してくれない。


「自分で食べれます。」

「俺がこうしたいから、いいんだよ。」


ニコニコと笑顔を称えながら、私に向かってあーんをしてくる。

差し出されたスプーンを奪い取ろうとしたら、強引に口に突っ込まれた。

ひんやりとした感覚が体を巡る。

控えめな甘さがとても美味しかった。


坪内さんの強引さに負けて、結局全部食べさせてもらった。

途中、坪内さんも「味見」とか言いながら食べてたけど。

甘いの好きじゃないくせに、私が食べるものは一口食べたがる。

うん、美味いな、なんて言って合わせてくれる。


「お昼、お粥でも作ってやろうか?」

「坪内さん、料理できるんですか?」


突然の提案に、私は完全に疑いの眼差しを向けた。

自炊しなくはないみたいなことを言っていたし、キッチンにも最低限の道具は揃ってるから、料理したことはありそうだ。

だけど、一緒に暮らし初めてから坪内さんが料理するのを見たことない。

私の眼差しなどどこ吹く風な坪内さんは、


「昼まで寝とけよ。」


そう言って私の頭を撫でてから、部屋を出ていった。


あーもう、本当になんなの。

なんでそんなに私を甘やかすの。

こんなの、どんどん好きが膨らんでしまうじゃないか。


私はベッドに横になると濡れタオルを目の上にのせた。

ひんやりして気持ちがいい。

こんな気遣いだって、普通してくれないでしょ?

ふいに、奈穂子の言葉がよみがえる。


『好きな人に甘えることの何が悪いの?』


素直に甘えたい。

甘えるためにはちゃんと自分の気持ちを坪内さんに伝えないと。


考えていたらいつの間にかまた眠っていた。

途中、濡れタオルを替えてくれたみたいだけど、私は気付かずにぐっすり眠りこけた。

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