13

坪内さんのマンションは、2LDKで広い。

一人暮らしなんて1LDKでも十分だというのに。

贅沢すぎでしょ。

よっぽど役職手当貰ってるのかなぁなんて、邪な考えが過ってしまう。


「好きに使っていいから。」


そう言われてもね、好きに使えるわけないじゃないですか。

初めてのお宅で、しかも異性の上司で。

一応好きとか言われている身としては、少々身構えてしまう。


リビングのソファーにちょこんと座ったまま、私はぼんやりしていた。

何でこんなことになったんだっけ?

私はビジネスホテルを探していたハズだったんだけど。


震えるスマホを見れば、奈穂子からメッセージが届いていた。

そうだよ、奈穂子が坪内さんに余計なことを言ったから。

だからこうなったんだ。

メッセージを開くと、


【どうなったか聞かせてよね(笑)】


なんて、軽い調子の文字が飛び込んできた。

奈穂子め、私が困るのを楽しんでるな。

どうなったもこうなったも、坪内さんのお宅にお邪魔しちゃったわよ。


坪内さんはいつの間にかスーツからラフな部屋着に着替えていた。


「秋山、夕飯食べた?」

「いえ、まだです。」


そういえばビジネスホテルを探すのに必死で、ご飯のことなんかすっかり忘れていた。


「カップ麺、食べる?」

「…いただきます。」


坪内さんはキッチンでゴソゴソ音を立てて、カップ麺を取り出す。

イケメン王子様だけど案外庶民的なんだな、なんて考えていると、坪内さんと目が合った。


「秋山、そんなにお腹すいてる?」

「へっ?」

「カップ麺凝視しすぎ。」


笑いながらカップ麺を5個並べると、どれがいい?と聞いてくる。

どれも見たことのないパッケージで、普通のカップ麺より高そうな気がする。

やっぱり前言撤回だ。

イケメンはカップ麺すらイケメンラインナップだ。


「俺のおすすめはこれ。有名店監修でなかなか美味い。」

「じゃあそれにします。」


私は坪内さんに従う。

坪内さんはなんだか楽しそうにお湯を沸かし始めた。


「ちゃんと自炊してるんですね?」

「いや、あんまり。帰って来て料理作るとか面倒くさいから。作ってもレトルトが多いよ。」


坪内さんいつも残業してるもんなぁ。

遅く帰って来てから料理とかしんどいよね。

なんて考えていたらカップ麺が出来上がった。


例のごとく、「俺のも食べて見るか?」と言われ、シェアしながら食べた。

ランチでもしょっちゅうそんな感じなので、何かもうそれが普通になってしまって、感覚が麻痺してくる。

本当に自然な流れでそういうことをするもんだから、私も慣れてしまったし、ちょっとくすぐったいけど嬉しい気持ちになってしまう自分にも驚いた。

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