09

奈穂子の言葉が頭を離れなくて、坪内さんの説明をぼんやり聞いてしまう。


このイケメン王子様が私に興味とか?

ないない。

今だって睨みを利かせながら私に指示を出してきているのよ。

資料だって何回差し戻されたかわからない。

課長と違ってめちゃくちゃ厳しいんだから。


「聞いてんのか?俺に見とれてんじゃねーよ。」

「はぁ?見とれてません!早く続きを説明してください。」


思わず赤くなった頬を両手で押さえる。

それを見て、坪内さんは楽しそうに微笑んだ。


もう、奈穂子が変なこと言うから。

意識しちゃうじゃん。


今日もランチに誘われたけど、何となく気まずくて断ると、坪内さんはめちゃくちゃ不機嫌な顔になった。


「何でだよ?」

「だって最近噂になってるんですよ。坪内さんは王子様なんだから、目立つんです。私なんか隣にいたら勘違いされちゃいます。」


そうだよ。

勘違いされたら坪内さんに悪い。

王子様の隣には可憐なお姫様じゃないとね。

そんな私の考えを他所に、坪内さんはぶっきらぼうに言う。


「俺は勘違いされて構わないし。」

「何でですか!」

「何でって、俺はお前のことが好きだし。」


一瞬言葉が理解できなくて、頭の中で反芻する。


”お前のことが好きだし”


ってちょっと待って。

そんなことありえないでしょ。


「はぁ?ふざけないでください。」

「ふざけてそんなこと言うかよ。」


焦る私に、坪内さんも語気が強くなる。

わーわー騒いでいたら、仏の課長が苦笑いを浮かべながら私たちの元にやってきて、静かに言う。


「痴話喧嘩は外でやろうか。早くお昼食べてきてくれる?」


顔は笑っているけど、これ怒ってるやつだ。

仏の顔も三度までだしね、素直に従わねば。


ていうか、痴話喧嘩って。

課長も何言ってるの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る