虹の園ノ二

「タ、ピ、オ、カ?」「うん?」


そう看板に書いてある露店から少し離れた隅で呟く声


服だけ大きい小さい子と派手な頭の控えめな視線の子が壁を背にして並ぶが

仲が良いのか悪いのか、互いの視線は暫くぶつかっていない


看板を指差す腕時計がキラリと青く光を反射する


「なに、あれ?あんたそんなに目悪いの?」「ぁっ...ぃゃ」


小さな口を大きな袖で覆い隠し顔を赤らめる声は聞こえない 

それなら本当は声を出す気は無かったのだろう


うつ向くメガネの子を視界の端で処理する金髪の子も決して声が大きい方ではない

いや隣に聞こえれば良いからかもしれない


視力検査よりも大分楽な文字が見えにくかったのか

よく聞くそれが好きすぎて心の声が出てしまったのか、理由を言えずモジモジ動く


「...」ブカブカーディガンの子が耳打ちで何かを打ち明ける...



「地野っちの猫可愛い~」「そう?」


廊下を行き交う生徒から頭半個分飛び出た髪の束が一つ踊っている


胸元に刺さるスマホに繋がれた大きな猫のヌイグルミへと

自分の顔と腕を後ろから絡ませた生徒が人差し指でのど元を撫でながら言う


今まで話していた向かい合う生徒はギョッとする


「うおっ優里から何か生えて来たかと思ったw」「これはね~」


ニョキッと寄生された当の宿主にリアクションはほぼ無い

それなら本当に驚いていないのだろう


驚いたのは自分だけ?と、話が勝手に進むことに不満げな顔をする子

二人に半歩近づくがそれだけでは話は止まらないかもしれない


のど元の位置が遠目の人の視線を止める「えっこの子を自分で!?」と大声で驚く

子の指が絶えず動き、何の話だと周りの耳を奪う


「ん?ちょっと待って」仲間外れの子が何かに気付き話を止める...



「はい、ポテト」「なぬっ!?」「w」


パシャと騒がしい教室内のあちこちからシャッター音が聴こえる


小麦色に焼けた少女はギプスから生える指で器用にボタンを押す

よほど左手のアンチョビバター味のポテトを奪われたく無いのだろう


口へと運び指の塩気が無くなってから左手に補充する


「サヤヤ~部活出れない時くらい我慢せぃw」「ヤダッw」


ペチッと左手を襲われるも、この食い意地は離す訳がない

それなら本当に痩せる気は無いのだろう


笑ってそのやり取りを見る子の手には、胃もたれ必須の揚げ物が山を造る

それがどの胃に収まるかはグロスで潤う口元が決めるかもしれない


「高校生の頃って食欲ヤバかった」と、よく細身の大人が言うけれど

果たしてどうかは今後の彼女にかかっている事は言うまでもないだろう


「何ニヤついてんの?」廊下の柱に隠れる細身の女性が言う


「あっお帰りなさい藍菜さん

ってか、こんな見知らぬ花園で僕を独りにするなんて酷いッスよ

もし何か有ったらどうするんスか~w」


楽しい思い出を振り返る様な顔を隠す気がない顔に


「何か有ったら原くんじゃなくて周りを心配するけど...

あのさ校内で盗撮者がどうこう聞いたけど、間違ってたらごめんね?はら」


「あ~~~っ」彼女の声を掻き消すような叫びが上がる


振り向くと光沢のある指がこちらを指差していた


「川藍(かわい)ちゃん!?」その言葉でグロスに集まる視線が一斉に動く


取材が来る事は事前に知っていただろう

でも女子高生の前に知れた顔が現れれば、自然とかくれんぼは始まる


鬼さん自由参加型のかくれんぼの始まりの合図...


「もういいよ」はいらない様だ

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