赤ノ二
「喉乾いちゃった、海ちゃん自販機行こ?」
青いマニキュアが私の目の前で外へと誘う
「うん」という言葉以外の選択肢は無い、だって彼女は私の友達だもの
仲良く手を繋ぎ教室を後にする二人に向けられたみんなの視線は、微笑ましいモノ
でもなく羨ましいモノでもない、哀れむようなモノ
それでも彼女と仲良く手を繋ぐ、もう片方をカーディガンと繋ぎながら
電気の消えた廊下は薄暗い
明かりのつく賑やかな教室とは全く違う空気が漂うここでは彼女の髪が黒く見える
だって今は夜だもの
文化祭の後夜祭にはいつもの学校を嫌う生徒も多く出席している
片付けがメインの談笑会ではあるが、こんな時間まで学校に残れる事はそう無い
事から気分も上がるのだろう
仲良く手を繋ぎ歩く姿は実際引く手と引かれる手
「...」無言で先を歩く彼女が向かうのは、暗闇にボンヤリ浮かぶ明かりの目的の
場所ではなく本当の暗闇が続く場所
わかっているわ
文化祭ももう終わりだもの、あなたの苛立ちもわかってる
そう準備も含めたこの楽しげな期間の中で、あなたが話したのは私も含めて何人
かしら?そういうことでしょ?
お互い話したのはこの学校が初めてでも前もその前の学校もずっと同じだもの
休み時間の過ごし方も下校時間の歩き方もずっと同じだったもの
私はあなたをわかっているわ
その髪だって自分はここにいると教えたかったんでしょ?
話し掛ける切っ掛けにして欲しかったんでしょ?
わかっているわ
わかっていないのはみんなの方よ、話し掛け難いなんて
でもそれは私も同じ、話し掛けて来たのはあなたを含めて何人かしら?
仕方ないわ
どうやって話し掛けたらいいか、どうやって話し返したらいいか
周りの会話を聞いててもわからないんだもの、ね?
だからあなたが話し掛けて来てくれた時は本当に嬉しかったの
例えその関係が歪んでいたとしても...
この時間に教室から離れたトイレじゃ誰も...今日はここで遊ぶの?
洗面台に水を張って...前にもやった息止めの時間を測るやつね
秋といってもまだ蒸し暑いから気持ちがよくて好きよ
喉は渇いていないからこの水は飲めないけど大丈夫よ
何も言わなくてもわかっているわ
だって私たちは友達だもの
冷えないようにこの服だけ着させて、メガネだけ外させて
じゃ私からね
「すぅ~」と静かに小さな胸を膨らませると洗面台に顔を埋める
「「...」」水の中はとても気持ちがいい
ゴポッと吐いた息が、耳元でパンッと小さく音を立て割れるのが聞こえる
そこからゴポッゴポッと水面にいくつもの気泡が沸いてくるのは直ぐだ
でも顔が洗面台から上がることは無い
彼女の手がまだだと言うから
バシャバシャッと音を立て揺れる水面に、浮かび上がってくる気泡はもう無い
体を支えるつま先がまだかまだかと床を蹴りたがる
そして私は顔を上げる、ッブアッと叫び声のような呼吸と共に
「...気持ち悪い、何で笑ってんの?あんた」
目の前の鏡に写るボヤけた顔、確かに少し笑っているように見える
「はぁはぁごめんなさい」と細く呟く
「どうせ知らないオヤジたちとやってる時もあんたそうやって笑ってんでしょ?
本当気持ち悪いやつ」
「...ごめんなさい」一瞬曇った顔を友達に見せる事なく微笑む
「チッ」舌打ちをして去ろうとする彼女の気は少しは晴れただろうか?
今日の遊びは終わりみたいだから友達として少しは役に立てたみたいだ
後片付けはいつも私の役目、栓を抜き渦を巻きながら黒い穴の中に流れる水を
見下ろすメガネの内側には水滴が溜まっていた
「まだなの?」不意に掛けられた声に振り向くと水滴は渦と共に消える
「ごめんなさい、水を抜いていて」まだ気は晴れてないのかしら?
私の顔から洗面台に視線が移りまた戻る
「気持ち悪い」それは彼女の前ではいつも私が微笑んでいるから
口は悪いけど私の事が心配になって戻って来てくれる優しい友達
わかっているわ
一緒に教室に戻ってくれるんでしょ?
小さな窓から漏れる賑やかな明かり
そう私も一人じゃ入りにくいから手を繋いで一緒がいいわ
大丈夫よカバンを取るだけだもの
「さっきの事誰かに言ったらあんたが売りやってる事バラすから」
わかっているわ
二人だけの...友達だけの秘密だもの
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