白ノ六

「...と共に、二人に他の共通点が無いかを...」


朝の顔が告げるニュースに私の望む進展はない


あれから二日という時間が経っている

新聞やニュースでは「二人」というフレーズが頻繁に使われるようになっていた


それは受け入れたくない真実を告げる言葉


行方のわからない彼女に対して、世間が同じと判断を下した結果である


何か見落としはないかと寝間着のまま食い入るように画面を見つめる私は

他から見れば彼女の熱狂的信者に見えてもおかしくはないだろう


化粧の映える健康的な肌、魅惑の詰まった小顔

優しく包み込む声、思わず真似したくなる仕草

確かに同姓から見ても魅力的である


朝食用のバナナを食べようとしたまま固まった口が虚しく開いている


流石は朝の顔を任されるだけの事はある

私なんて寝不足で...あっ時間だ


失踪事件のニュースが終わればもう彼女に用などない

勝手に出勤前のお父さんたちでも癒してなさい


貴女の笑顔の「行ってらっしゃい」に応えたくて

家族とのコミュニケーションを断ってでも第一声を取っておく人もいるのよ...多分


だから私のことはどうぞ気にせず笑顔を振り撒いてあげて

その間に身支度を済ませて学校に行かなくては


一口だけ噛った食べかけのバナナを綺麗に皮に戻してちゃぶ台の上に置く


家には今私しかいないけど、襖を閉めて


~しばらくおまちください~


朝の光も遮られた薄暗い玄関、今の心の中を色で現すならこんな色かもしれない

吹き消すように「ふぅ~」と呼吸を一回闇に溶け込ませるとドアノブに手を伸ばす


「...」おはよう、朝という柔らかい光が私を出迎える



「二人とも大丈夫かな?」「心配...旨っ」「「w」」


昼の顔が口の回りを汚しながらする話に本心はない(多分)


ジャムパンを頬張りながらの一時的な話題

それを食べ終える頃には好きなアイドルの話にでも切り替わっている事だろう


クラス、学年問わず学校中からその話題が聞こえてくる


今朝急遽行われた全校集会、その場で知った四割程度の生徒が中心となって

ざわついている


僅かでも進展はないかと職員室のドアを叩こうとする私よりも、一足先に誰かが

内側からそのドアを開けたようだ


「「あっごめんなさい」」目の前に現れた人影にほぼ同時に謝る


顔を下ろす私よりもはるか下に見える頭は生徒のようだ

丈の長いスカートに続き見えてきた前に組まれた手がお辞儀の綺麗さを伺わせる


アイロンをかけたばかりのようなシワ一つない制服は入学前を思い出させ

化粧っ毛の無い幼い顔を大きな丸メガネで隠した頭がそれに続く


取り敢えず半歩体をずらして道を譲ると「すみません」と細く呟き、軽い会釈を

しながらその小さな身を更に縮め横をスッとすり抜けて行った


あの子どこかで見た気がするけど...廊下の奥へと消えていく彼女の背中をしばらく

眺めていたら、おっとりした浜田の声が近づいてくる


「もう行っちゃったかしら海...あら地野さん、何かご用?」


その背中が遠くの廊下を曲がったところで小夜との何気ない会話が蘇る


朝の校門で山中部に捕まった一人の身を縮める小さな生徒

反対にダボついた大きな上着がアンバランスでその存在を目立たせている


「ん?あ~別に知り合いって訳じゃないよ、特に話したことも...ほら派手だけど

どこか暗い星井さんいるでしょ?その星井さんと仲が良かったのが地味だけど

どこか目を引くあの海藤さんって子...」


「あら地野さん、ご用事は?廊下は走らないでね~」



「お姉さんイチタイしてみない?」


夜の顔が私に話しかけてくるが別に知り合いではない


イ、チ、タ、イ?...平日の夜だというのに全く光を失わない街

そこを行き交う人々は、みな思い思いの色で自分を包み街の景色に溶け込んでいる


果たして小夜はあの薄暗い商店街を通っただろうか?


ここへ来る前にその景色を目にしていた私は

その自問に対して確信に近い答えを抱いてここへやって来た


視線は不安げに俯きかげん、でも堂々と道の真ん中を歩く

自分が今ここに居るということを周囲の人間に気づかせるように


そう言えばパパがいた頃こんな看板みたいなライターがよく家に転がってたな

新しいのが増える度に二人が喧嘩して...そしてまた増えて


一人にやけながら懐かしむ私に忍び寄る足音が一つ

上から声をかけられるよりも先にその大きく異様な気配に気付き振り返る


さぁ、あなたは小夜の居場所を知ってる人?

心の中での疑問がゆるんだ私の顔を変えて見上げる


振り向く姿に一瞬驚いて見せたが直ぐお決まりのマニュアルを口にする彼


「私は沼津幸信でふ、電気店を経営してまふ、お腹空いてまふか?」


「...」その口から漏れる酒の臭いに一瞬立ち眩む


そんな私の肩を後ろから抱き抱え、彼はわざと大きな声でハッキリ言う


「こんな時間に学生さんが出歩いてちゃダメだ、送ってくから」


道の真ん中で堂々と獲物を刈る彼に違和感を持つものはいないみたいだ

保護されたあの子はもう安全だ、と


多くの人が行き交うこの場所で、私は第三の被害者となる...

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る