赤ノ六
「こんにちは、海藤奏です」
色の無い瞳は死んだ魚の目のようだ
「「「...」」」もちろん挨拶が返ってくる事はない
だってそれは私の小さな独り言
見下ろす先の三体の哀れな人形たちへの、ほんの小さな独り言
この人形を知ったのは昔だったかしら?それとも最近?
この場所を知ったのは「三人」と聞く前、そう今ね
安心して今は大人じゃない人はいないから、残念ね今は大人はいないから
でももう必要ないでしょ?私も助けて欲しかったのはこうなる前だもの
例えその前に気付いても助けてくれる大人はいないかもしれないけど
みんなそうただ見てただけ、ただ助けなかっただけ
その事を別に怒ってる訳じゃないの
だから私もただ見てただけ、ただ助けなかっただけ
大人しく受け入れてでも欲しいものが、絶対手に入れたいものが
あなたたちにも合ったんでしょ?なら良かったじゃない
見下ろす瞳に光沢は無い
「...猫?」人形の手から伸びるリードに一匹の猫が繋がれている
動物なんて飼ったこと無いけど猫は可愛くて好きよ
近所の猫はちょっと乱暴だけど、飼い猫も犬と同じ紐で繋ぐのね
近づくがこんな所に飼い猫がいるわけもない、ただのヌイグルミだ
リードで繋がる飼い主は四角く薄い板のよう、猫より小さい小人の様
それが人じゃない事くらいわかっているわ、見た事くらいあるもの
触った事はないけどお姉さんがそれとお話してたわ
友達もそれが歌う歌を聞いていたわ、形は違うけど私の時計と同じでしょ?
「...」傍観者を望む私の好奇心がグラグラと揺れ動く
何よそんなもの、みんなが持っているからって羨ましくなんて...
ゴクッ塞いでいた欲という名の扉の鍵は外れている
あとはそれを押し開けるだけで満たされるだろう
とても簡単な事くらいわかっていた
一つだけと鍵を掛けたそれに手を伸ばせば、止まることなく増えていくのを満たし
たくなるだろう
そんな簡単な事くらいわかっていた、が
鍵の外れた扉が開くのはこんなにも簡単な事だった
「フフフ、くだらない」それを投げ捨てると次へと手を伸ばす
昔の友達が飼っていたのと同じ青色の小人、この子はお話できる子かしら?
確か最初に****と
これは受話器のマークね、履歴の下には欲しいが並ぶ
ダイヤルの文字は白くて見にくい、もっと濃く書けばいいのに
あらあら小人は心がわかるのかしら、今度は履歴が白くなる
やっぱり心がわかるのね、そうそうこの数字なら私でもわかるわ
「...」グラグラグラグラ揺れは止まるどころか増すばかり
小人と話してみたい
フンーッフンーッ口が呼吸を嫌ってる
さっきの猫の飼い主がその身に写した三つの数字
仕方がないからお話は諦めるしかない
フンーッフンーッ手が呼吸を塞いでる
プルルルルルッ家にいるのと同じ泣き声がする
こんな小さい体で大人の真似して偉いわね
フンーッフンーッ「はい、警察です」
彼女は友達だもの...彼女は代わってくれたもの...
彼女が誰かをこの外に連れ出したんだもの
助け合いって素敵ね...いいわ、だから一度だけ大人になるわ
フンーッフンーッ「どうしました?聞こえる?苦しいの?」
呼吸は鼻が助けてくれるけど、この笑いと欲は誰が助けてくれるの?
みんなにとっては普通の事でも全てを扉の中に閉まってきた私は、鍵の掛からない
内側から這い出る誰かを縛る術を知らないの
フフフッこれ以上はダメ、もう手で塞ぎ切れないもの
私は片腕の人形に小人を託すと、乱れる呼吸と塞いだ笑いを吐き出せる場所まで
走り出した
ケタケタケタケタ、今まで聞いたことの無い音が暗闇に鳴り響いた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます